新文芸坐の《8・15 終戦の日によせて 反戦・社会派映画特集》で、映画『あゝ声なき友』(1972年、今井正監督)を見る。併映作品の『日本のいちばん長い日』が目当だったので、本作は初見。
原作は有馬頼義の小説『遺書配達人』で、原作を読んだ渥美清が映画化の企画を出し自らが主演している作品である。
終戦まで病気で入院していた西山(渥美清)は、その後、南方に送られ全滅した部隊でただ一人の生き残りとなる。部隊の戦友たちは南方に送られる前、検閲を通さない遺書を西山に託す。その遺書を抱いて西山は日本に帰る。
なんとか生計を立てながら、戦友たちの遺書を届ける旅に出る西山。遺族を訪ねて全国を巡るなか、戦争で人生を狂わせれた人たちの生活を目の当たりにして戦争を深い傷跡を思い知る。映画の終盤、全滅したと思われた部隊は実は……。と言ったストーリーである。
全国各地をロケした風景が美しいのは美点。そして遺族尋ねるごとに人間模様があり、オムニバス形式でいろいろは俳優の芝居を楽しめるのもよい。主演の渥美清は、寅さんのイメージが強いが本作では社会派監督・今井正がシリアスな渥美清をどのように料理しているのかにも注目したい。
この時代に撮られた戦争を描いた映画には、キャストやスタッフが戦争を経験しているからこそ出せる雰囲気がある。戦後70年。戦争経験者は減り、こうした映画はもはや撮れないだろう。このことは戦後日本に平和が続いていることの証でもあるから喜ぶべきことなのだろうが、映画ファンとしては複雑な心境である。