退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『陸軍登戸研究所』(2012)

先週、新文芸坐の「気になる日本映画達〈アイツラ〉2013」という企画上映で、『陸軍登戸研究所』(2012年、監督・編集:楠山忠之)を観た。偶然、監督のトークイベントに遭遇してラッキーだった。

この映画は、大戦中、秘密兵器の開発や諜報戦の拠点だった登戸研究所の隠された真実を多くの関係者の証言で明らかにするドキュメント映画。ユーロスペースで上映されていたが見逃したが、今回ようやく観ることができた。上映時間は3時間であるが長さを感じない。

陸軍登戸研究所〈完全版〉 [DVD]

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主に取り上げられているのは、毒物などのいわゆるBC兵器、偏西風を利用した対米風船爆弾、そして中国経済の混乱を狙った偽札製造である。BC兵器については、中国で人体実験をしたという証言が飛び出し正直シャレにならないが、風船爆弾や偽札製造はいまとなっては微笑ましく感じられる。

特に風船爆弾は、和紙とこんにゃく糊を材料していたという。当時、風船爆弾の製造に駆り出された女性や、風船爆弾を放球(風船爆弾を風まかせで放つこと)に従事した者の証言が興味深い。軍首脳部が、こんなトンデモ兵器で米国に対抗できると本気で考えていたのか、責任者に小一時間問い詰めたい。それでも実際、太平洋を横断した風船爆弾があり、米国本土で犠牲者が出たというのだから驚きだ。

このドキュメント映画を見て面白かったのは、当時を証言する人たちが皆楽しそうだということだ。もちろん研究で心に傷を負って証言なんかしたくない人もいるだろうが、映画に登場する人たちは嬉々として当時を語る。監督はトークイベントで「人間は人生の終わりが見えると、はじめて話せることもある」というようなことを話していたが、なるほどと思った。

現在、この登戸研究所の敷地の一部は明治大学生田キャンパスになっており、明治大学平和教育登戸研究所資料館で当時の資料や解体された建築部材が展示されている。一度、行ってみたいものだ。

陸軍登戸研究所の真実

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『陸軍登戸研究所』予告編 - YouTube