退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

香山リカ『しがみつかない生き方』

いまのご時勢では「ふうつの幸せ」というのこそ難しいのではないか、というのが第一印象。この本では、ざっくり言うと「そこそこでいいでしょう」と説いていて、目次には、「○○をやらない」という「禁止」の見出しが並ぶ。例えば、「恋愛にすべてを捧げない」「仕事に夢を求めない」「子どもにしがみつかない」「お金にしがみつかない」、そして話題になった「〈勝間和代〉を目指さない」という具合。

この本を読んで、気持ちが楽になった人もいるだろうが、いわゆる普通の人にとっては、あまり具体的な解決にならないように思う。経済的なことで言えば、がんばることをやめれば、セーフティネットが不十分な社会では途端にドロップアウトして、滑り台をころげ落ちるのが現実だ。むしろがんばっているからこそ、このポジションに留まっているともいえる。社会が一斉に「そこそこでいいよ」とならない限り、まさに画餅にすぎず、まったく現実的ではない。

一方、救いを社会保障などの社会制度にだけ求めるのではなく、ひとりひとりの内面にこそ求めるべきだ、という主張には聴くべきものがある。精神科医らしい指摘だ。

それでも勝間和代はもちろん、香山リカも〈成功者〉だというのは念頭におく必要があろう。成功者の声しか世間には届かないという事実に思いをめぐらせる必要があろう。