過去の数々の薬害事件、または最近の新型インフルエンザでの迷走ぶりの裏側には、やっぱり無能なエリート官僚と事なかれ主義の役所の体質があったことが確認できるように思える。医系技官というからには、姑息な役人根性は別にしても、医学分野においては高い専門性を備えた人たちだろうと思いきや、臨床経験もなく、新たに専門知識を得る機会もないというのには驚いた。大丈夫なのだろうか。
筆者が学会誌の購読申請を却下されたのにも呆れたが、いちばん面白かったのは検疫所長の「検疫所は張りぼての虎なんだ」との一言。「張りぼての虎」というのは笑える。
でもこういう人たちでも、国民は頼らなければいけない現実もあるからこそ複雑な思いである。筆者のボトムアップの活動で、役所の本質が変わるとも思えないのだが、どうしたものか。暗澹とした気持ちになる。
一度、感染症テロが起こって甚大な被害がもたらされるといった状況でもない限り、1ミリも物事が動かないような気がする。まあ考えたくもないが。
厚生労働省での冷遇ぶりからすると、著者は、アメリカから帰国せずにキャリアを重ねた方がよかったのではないかとも思えるが、本人がどう思っているか聞いてみたい気もする。