戦後の芸能界を華麗に彩った兄弟俳優・若山富三郎と勝新太郎。この二人を誰よりも身近で見続けた俳優・山城新伍が、生身の二人を描くエッセイ。
先日、山城新伍の訃報が報じられた頃、吉田豪がラジオ(正確にはポッドキャスト)で強く推していたので、普段はタレント本など目もくれないのだが読んでみた。とにかく、すごい本だ。抑えた筆致によりやや暗いトーンが全編に感じられるが、それがいい味を出している。
若山富三郎の東映撮影所*1での数々のエピソード、そして勝新の座頭市」撮影裏話や「影武者」降板の真相などなど、映画全盛期の雰囲気が感じられるのは映画ファンとして楽しいし、型破りな二人が生き生きと浮き彫りにされているのも見事。それぞれの時代の出演作品を重ねて読むと一層感慨深いだろう。
二人が本当に真摯に芸に対峙していたことが伝わるし、真の「スター」だったことはよくわかる。当時をおおらかな時代だったと言うのは簡単だが、いまの芸能界はまるでつまらなくなった。すっかり世の中も変わり、こうした芸のある人が芸能界で成功することもないだろう。それだけに彼らの残した作品は観客を魅了して止まない。
この本の終盤、山城新伍が、二人が亡くなるのを見送る場面はいっそう泣ける。二人を本当に愛していたのだろう。その山城さんも鬼籍に入り、いよいよ昭和も遠くなった。