退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

『愛の陽炎』(1986) / 伊藤麻衣子主演の謎のアイドル映画

フィルムセンター(NFC)で「愛の陽炎」(1986年、三村晴彦)を鑑賞。この春に「愛しのハーフ・ムーン」(1987年)を観て]以来、この作品も観たいと思ったいた。しかしDVD化されておらず、名画座頼みだったが、まさかNFCで観ることができるとは思わなかった。毎年恒例になっている「特集・逝ける映画人を偲んで 2007−2008」という企画のなかの一本で、三村晴彦監督を追悼しての上映だった。なぜ「天城越え」を選ばなかったのかという疑問はあるが、まあいいだろう。

当時の人気アイドル・伊藤麻衣子(現・いとうまい子)が主演していることを差し引いても、密かに好きな映画である。伊藤が結婚するつもりだった男に手ひどく裏切られ、代々伝わる “五寸釘”で復讐を企てるサスペンス劇。

伊藤が白装束で藁人形に釘を打ち付ける「呪い釘」のシーンが、あまりにシュール(今回も会場から笑いが漏れていた)であるため、キワモノだと誤解されがちな作品だが、意外と映画としての骨格がしっかりとしていて、一応は映画の体をなしている。まあ佳作といってよい。

巨匠・橋本忍が脚本を担当しており、実質的には橋本の作品だったのだろうが、荒唐無稽な話が破綻しないのは、さすがというべきか。劇中歌の「奥秩父子守唄」*1橋本忍の作詞だということも銘記しておきたい。

この映画の企画意図は定かではないが、伊藤をフューチャーしたアイドル映画としては、萩原流行との必然性のないディープキスのシーンやベッドシーンが織り込まれていて、やはり伊藤が誰かに騙されていたのだろうか、と思わせるフシがある。脱アイドル路線を模索していたのもしれないが真実は闇のなかだ。

映像面では「呪い釘」に向かう伊藤を捉えるローアングルからのショットには非凡なものと感じるし、秩父の山々が美しく撮影されているのは評価できる。

ただ伊藤を手ひどく裏切り、五寸釘による復讐の対象となり落命する萩原が、生前、土地売買については地主と誠実に交渉していて、実は彼女を愛していたことが彼の死後に明らかになるのだが、その点はどうも合点がいかない。萩原が鬼畜に思えて仕方がないからだ。彼女の対する真摯な思いというものが、劇中からはまるで感じられず、ただのチンピラにしか見えない。おそらく萩原の持ち前のキャラクターによるものだろう。その点は映画全体の印象に結びつく箇所だけに惜しい。

他の出演者では、祖母役の北林谷栄がいい味出していて強烈な印象を残す。また戸川京子が出演していたのも懐かしい。

まあ、伊藤麻衣子がかわいかったので観た価値はあった。結局、そこに帰着するわけだが、そうした意味では、アイドル映画として成功だといえるだろう。

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*1:本作品の主題歌でもあるシングル「愛の陽炎」のB面に収録。