退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか』

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

構造改革の急先鋒だった著者が変節するに至った心中を吐露し、日本再生に向けての提言した書だと聞いて読んでみた。かなり売れている様子。

著者がハーバードに留学して、米国の豊かな生活、学問風土に感化されて「アメリカかぶれ」になるあたりは結構おもしろい。留学時期のエピソードで一冊できるのではと思ったほど。しかし、帰国後、いつまでも「かぶれた」ままで甘んじているは理解できないし、「民主主義や近代経済学も、エリート支配のための『ツール』だった」ことすら看破できないで、博士号まで取得できるのかと訝しく思う。

さらに、いまさらながらにカール・ポランニーを引き出しから出して、得々と資本主義の問題点を語られても困る。まさか最近知ったわけでもあるまいし、新自由主義に加担していた時分には、知らなかったとでも言うのだろう。無知なのか厚顔無恥なのかのどちらかだろう。

そのあとは、随分と大風呂敷を広げて東西の宗教論や文化論に言及している。日本人については「相手を力づくで支配するのではなく、融和し、協調しあうという古代の日本人のスタイルは、その後の日本においてもいわば精神的DNAとして連綿として受け継がれてきたと言っても間違いない」としているが、「精神的DNA」といわれても検証できないし、こういったカルトに紙面を割くならば、具体的な提言に専門性を発揮してほしいというのが率直な感想だ。

肝心の「日本」再生への提言については、「税制改革」「基本年金の税方式化」「ベーシック・インカム」「地方分権」などが、ひととおり挙がっているが、いずれもどこかで聞いたことがあるなという印象を受ける。個々の議論も不十分。さらに「紙面が足らない」とかいっているし…。だから文化論よりこちらを優先してほしいと…。

まあ、通読してみて再び読む価値のある本とは思えない。学ぶところがあるとすれば、筆者の「機を見るに敏」といった、変わり身の早さか。この本でも印税がっぽりで、ウハウハでしょうね。