退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

『八甲田山』(1977)

橋本忍インタビュー記事を読んで、何度も観た作品だけど、どうしても見たくなったのでDVDを借りてきた。森谷司郎監督作品。

一応、高倉健北大路欣也との交流を軸としたドラマ仕立てになっているが、娯楽性は薄い。冬の八甲田山の自然にひたすら圧倒される。主役は冬の山である。

八甲田山 特別愛蔵版 [DVD]

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印象に残るのは、厳寒の山中で遭難した北大路隊の兵士たちが、一人また一人と静かに倒れていくシーンである。犠牲者のなかには発狂する者もでるが、声もなく倒れていく様はより迫るものがある。

もうひとつは、高倉隊の案内人を務める秋吉久美子の神々しさである。屈強の兵隊たちを先達て、雪中をぐんぐん進んでいく。目的地に着いたあと、高倉が依然として案内人を隊列の先頭に据え、礼をもって帰路に送り出すところが好きだ。

この映画は、北大路が「天は我々を見放した」と叫ぶシーンが、すっかり有名になった。映画を見た限り、半分以上は人災というか自業自得に思える。こんなセリフを吐いて、自害するなどリーダーとしては無責任極まりない。これは現代の視点でいえることかもしれないが。ここで感じるのは、バカについて行ってはいけないということ。しっかりと自分の位置を見極めることが重要だということは、現代において通じることだろう。

DVDには、脚本家の橋本忍が学生たちの質問に答えるかたちで、この映画について語るという特典映像が付いていた。巨匠の外見から、DVD発売時に作成されたものだろうか。学生との対話と言っても、学生が一言質問して、それにただ答えるという形式で、インタラクティブではないのは残念。

この特典映像で、橋本は3年にわたり冬の八甲田山にロケに出かけて、ロケ前には走り込みで体力に付けて備えていたことも明らかにしている。また製作時には、組織論や反戦を織り込む意図はなかったと語っているのも興味深い。なかなか貴重な映像だった。