退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

渡辺将人『見えないアメリカ』

長丁場だった米大統領選が終わった。今回の選挙戦は、これまでにない盛り上がりを見せ、様々な話題とともに報道もいつも以上に熱を帯びていたようだ。こうした報道を横目でみながら、アメリカの地域や宗教などの多様性に興味を感じて、この本を手にとってみた。骨太で講談社現代新書らしい一冊。

見えないアメリカ (講談社現代新書)

見えないアメリカ (講談社現代新書)

筆者のアメリカでの選挙活動などの政治経験に基づく言葉には説得力がある。単純に「保守」と「リベラル」という図式ではアメリカを理解できないことがわかる。まず興味深かったのは、「共和党と民主党の逆転図」(p.50)である。1896年と2004年の大統領選挙結果を比較し、共和党と民主党のそれぞれが優勢であった州が、見事に逆転している事実である。なぜこのような政党再編が起きたのか、紙面を割いて分析しており、一読の価値がある。

第4章「信仰」では、アメリカの政治を取り巻く宗教の状況を論じている。この話題は、日本人にはとくに分かりにくいと思われる。このなかで、エコなどの公共利益団体について言及しており、こうした損得抜きの政治活動に、宗教団体が関与しているのが、アメリカの複雑で分かりにくいところである。反面、こうした環境団体や消費者団体といった損得勘定を無視した政治活動で大きな成果を挙げているところも、アメリカの凄さといえる。

第5章「メディア」では、テレビが大きな役割を果たしてきたことが語られる。いろいろな番組やアンカーパーソンの名前が登場するが、実際にビデオを見ながら読みたいところだ。またインターネットについては、やや駆け足になって感がある。別の機会にじっくり語ってほしい。

あとがきに、永井荷風『あめりか物語』を取り上げて、当時の「エスニックなアメリカ」を描いた荷風の観察眼を評価している。その特徴は現在でも健在であるとしている。荷風ファンとしては興味深い。

また全編を通して、映画のなかで描かれている"アメリカ"が頻繁に登場する。機会があれば、「映画にみるアメリカの実像」といった論説も読んでみたいものだ。