退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

呉善花『「漢字廃止」で韓国に何が起きたか』(PHP研究所、2008年)

以前、韓国で漢字を廃止したと聞いて、それで不便でないのかと前から疑問に思っていた。この本によれば、やはり相当に困っているようだ。概念や理念を表す言葉、各種の専門用語など、伝統的に漢語で表されてきた重要な言葉の多くが使われなくなり、語彙の貧困化が深刻だという。

「漢字廃止」で韓国に何が起きたか

「漢字廃止」で韓国に何が起きたか

日本では漢字を廃止するなど思いもよらないが、それは漢字の輸入の仕方に大きな違いがあるためだとしているのは興味深い。韓国では漢字語はあくまでも外国語であり、ひとつひとつ意味を覚えなければならない。一方、日本では、訓読みを通じて漢字の意味や読みが日本語の一部になり、うまく取り込むことに成功したという。

以前、漢字を用いていたヴェトナムでも韓国と同様に外国語として漢字を捉えていたらしいので、日本が特殊だということだろう。日本で漢字を巧み取り込んできた先人たちには感嘆せざるを得ないし、いまも豊かな言語文化を保持しているのは誇るべきことと言ってよいだろう。

あと気になったのは、韓国での「漢字廃止」への流れである。当然、漢字を廃止すれば何が起こるかということは、インテリたちは予想できたはずだ。それにもかかわらず民族主義プロパガンダで「漢字廃止」という取り返しがつかない方向に動いてしまう国民性には驚かされる。いったい何がそうさせるのか、精神構造を解き明かしてほしかった。

さて読後の感想であるが、やはりこの本は物足りない。新書で紙面に制限があり、さらにその半分以上が「韓国の言い回し」「韓国のことわざ」となっているのでなおさらである。少なくとも、次の2点の点はもっと知りたかった。

ひとつは、日本植民地以前、日本植民地時代、戦後というそれぞれの時期における韓国語に変遷である。それぞれの時代での韓国語の様態や識字率や知識階層の分布などについての考察がほしい。また、もうひとつは、漢字廃止の影響が現代社会に及ぼした弊害について具体例を示してほしい。漠然とは伝わってくるのだが、日常生活でどのような不便が生じているのかをもっと紹介してほしいと思った。

漢字はアジア圏の共通の言語基盤としての役割を担える可能性があると思うが、それを思うと韓国の漢字廃止はいかにも惜しい。