退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『赤と黒の熱情 Passion』(1992) / 工藤栄一と野沢尚によるネオ・ヤクザ映画

YouTubeの「TOEI Xstream theater」チャンネルで配信されていた、映画『赤と黒の熱情 Passion』(1992年、監督: 工藤栄一)を鑑賞。脚本は野沢尚陣内孝則主演のヤクザ映画。

組の金3億円が組員の文治(柳葉敏郎)により奪われる。文治の兄貴分楯夫(陣内孝則)は文治を射殺する。組織に追い詰められ、なぶり殺しにあう前に楽にしてやりたかったからだ。文治は金の隠し場所は最後まで明かさなかった。楯夫は6年間服役し、出所した楯夫を出迎えたのは弟分の研作(仲村トオル)だけだった。文治の妹・沙織(麻生祐未)は、組織の罠にはまり麻薬漬けにされ、記憶喪失となり病院に収容されていた。楯夫は、彼女を“美しい過去”で励まそうとするが……。


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時代劇黄金時代の東映で活躍した工藤栄一監督と、テレビドラマ「青い鳥」「眠れる森」などで知られる野沢尚の組み合わせでがぜん期待が高まる。ヤクザ映画に記憶喪失を絡めてくるあたりは野沢尚らしさが感じられるが、ストーリーは暴走ぎみ。

赤と黒の熱情 Passion』というタイトルは、もちろんスタンダールとは関係なく、映像的な「赤と黒」を示唆している。冒頭の夜中の赤い傘や、終盤の赤いジャケットに黒いコートを着たヒロインなど、随所に「赤と黒」を見い出すことができる。またタイトルにわざわざPassionと付け加えるセンスは時代を感じさせる。

ヤクザ映画だが、沙織を偽りの“美しい過去”で励まそうと周りの人たちがコメディータッチで奮闘するシーンがいちばんの見どころ。とくに室田日出男が高校の校長先生に扮する場面は愉快で楽しめる。

総じて、3億円の隠し場所に「えっ」となったり、主人公ひとりで銃撃戦で古尾谷雅人が率いる組織のヤクザを全員倒したり、いろいろ脚本がぶっ飛んでるが、それなりにまとめてしまうのは監督の手腕だろう。ラストの楯夫と沙織がキスするシーンで終わるのも安直にすぎるが、ネオ・ヤクザ映画としてはそれもアリ。映像は美しい。

さて出演者に目を向けてみると、主演の陣内孝則はこのジャンルで一時代を築いただけあってサマになっていてカッコいい。場数を踏んでいるのだろう。安定感がある。

一方ヒロイン役の麻生祐未は、役を消化しきれていない。まあ「記憶喪失と思わせておいて、実は……」という難しい役だから仕方ないが、もう少しなんとかならなかったのか。露出も控えめで、シャワーシーンで尻の入れ墨を見せる精いっぱい。それもダブルボディかも……。ヒロインには麻薬漬けになってやくざにいたぶられるような汚れ役を演じてほしかった。脱げる女優でもっと適役はいただろう。

映画パンフレット 赤と黒の熱情 Passion

余談だが、このチャンネルでは毎週土曜日に新作が配信されていたが、今回はなぜか金曜日に配信されていたのでストリーミングで見ることができなかった。そこでアーカイブを見たがCMが多くてゲンナリ。作品を楽しむレベルではない。CMは適当なタイミングで最小限にしてほしい。