退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019) / シリーズ開始から50年目の50作目

もうすく上映終了というので近くのシネコンで映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』(2019年、監督:山田洋次)を見てきました。シリーズ開始から50年目の50作目です。

映画「男はつらいよ お帰り 寅さん」オリジナル・サウンドトラック

登場人物たちの“今”を描く新規映像と、これまでの寅さんのシリーズ映像を紡ぎ合わせた構成です。冒頭、桑田佳祐がお馴染みのテーマ曲を寅さんに扮して熱唱。「つかみはOK」と言いたいところですが、イマイチ桑田起用の演出意図がわかりません。

肝心の寅さんは長らく音信不通になったままという設定。仏壇にはおいちゃん夫婦の遺影がありますが、寅さんのものはありません。いつ帰ってきてもいいように二階を掃除してある、という件は泣けます。

この映画は、寅さんの甥・満男(吉岡秀隆)とその初恋の人・イズミ(後藤久美子)の再会物語です。満男は結婚して娘に恵まれるも妻に先立たれて、中学三年生の娘(桜田ひより)と二人暮らし。サラリーマンを辞めて小説家に転じています。一方のイズミは欧州に渡り、そこで家族を持っていて、いまは国連難民高等弁務官事務所(UCHCR)の職員です。

そんなイズミが上司のアテンドのため来日、仕事が終わり欧州に帰る前にひさしぶりの日本を楽しんでいると、偶然書店でサイン会をしていた満男に再会し、柴又の実家を訪れたあと短い間ながら離日するまで行動を共にすることになります。

シリーズでは当然ふたりは結婚するだろうと思っていました。実際、そうした構想もあったようですが実現せず、渥美清の死去によりシリーズは終了し、ふたりの関係は宙ぶらりんのままでした。そうしたふたりが別々の人生を歩くことになったことを、自分の人生に重ねてしみじみ思う人も多いでしょう。

個人的にはいちばんの注目はゴクミこと後藤久美子です。彼女をみるために映画館まで行ったといってもいい。女優復帰はひさしぶりだということですが、声の調子はかなり低くなりましたが、セリフまわしは昔のままでなつかしい。美少女がフツーの美人になったなと印象ですが、全身にみなぎるセレブ感は隠せません。

満男はずっと妻が死んだことをイズミに隠していましたが、最後空港で見送る場面でそれをイズミに伝えます。そして感極まったイズミは満男にキスして別れます。ありきたりのですがいいラストです。いっそふたりで濡れ場でもやってくれよと思いましたが、そうなると「男はつらいよ」シリーズではなくなりますね。


映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』予告映像

過去作品のシリーズ映像も効果的に使われていたのもよかったです。最近「スター・ウォーズ」シリーズの最終話を見ましたが、シリーズのまとめとしてはずっと納得ができました。スターウォーズのスタッフは山田洋次監督の爪の垢を煎じて飲むといいです。おそらく本作がシリーズ最終作となるでしょう。みなさんお疲れ様でした。

キネマ旬報 2020年1月上・下旬合併号 No.1829