退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(1972) / シリーズ第10作・マドンナを振る寅さん

DVDを借りて映画『男はつらいよ 寅次郎夢枕』(1972年、監督:山田洋次)を鑑賞。「男はつらいよ」シリーズの10作目。マドンナは今年亡くなった八千草薫。追悼を兼ねて見直してみた。

恒例の夢パートでは、「マカオのお寅」こと寅次郎(渥美二郎)がカフェ女給のさくらを救う。
寅次郎がかつてのテキヤ仲間の墓参り終えて旅先からとらやに戻ってみると、寅次郎と入れ替わりに物理専攻の東大助教授・岡倉(米倉斉加年)がとらやに下宿していた。すっかり機嫌が悪くなった寅次郎の前に幼馴染のお千代(八千草薫)が現れる。彼女は結婚に失敗して柴又に戻って美容院を開業していた。すっかり美しくなったお千代に再会した寅次郎はさっそくのぼせ上がる。ところが岡倉助教授もお千代に一目惚れして……。


映画『男はつらいよ』(第10作)予告編映像

本シリーズでは、寅次郎がマドンナに散々入れあげて挙げ句に失恋するのがパターンだが、本作は逆に寅次郎がマドンナを振り敵前逃亡するという新展開。お千代はマメに世話を焼く寅次郎に家庭的な幸福を夢見るが、寅次郎が期待する恋愛とは違ったのだろうか。かえって切ないストーリーになっている。ちなみに二人がデートして寅次郎がお千代を振るシーンのロケ地は亀戸天神社

ストーリーとは直接関係ないが、旅先で往生したテキヤ仲間を弔った旧家の奥様役で田中絹代が出演しているのも見逃せない。寅次郎とふたりで墓参りするシーンが美しい。贅沢なシーンである。

変人キャラの助教授役の米倉斉加年も「とらや軍団」に混じって漫画的演技を強要されて気の毒にも思えるが、意外に溶け込んでいて好演している。

この時期の寅さんには、国民的映画シリーズになったのも納得できる安定感がある。