退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『日本の黒幕(フィクサー)』(1979) / 田村正和がノリノリである

新文芸坐の《洒落たタッチと円熟の演出【追悼】職人監督(プロフェッショナル)降旗康男》という企画で映画『日本の黒幕』(1979年)を鑑賞。「黒幕」は「フィクサー」と読ませる。脚本は高田宏治

ロッキード事件から着想を得て、田中角栄児玉誉士夫をモデルに政財界と右翼団体の癒着を描くことで、フィクサーの存在と実態をえぐる。企画途中まで監督は大島渚で企画が進められたが、脚本の最終段階で突如降板した作品としても知られる。そのお鉢が降旗康男監督にまわってきたわけだ。監督はこうした政治色の強い作品は向いていないだろうと思ったが、案の定、日本の首領」シリーズに比べると冴えない出来になっている。


日本の黒幕(プレビュー)

本来、もっと壮大なスケールで描くべきだった作品だが、テロリストの少年や家庭内の近親相姦などの愛憎劇ばかりが強調されていて小さくまとまっている。政財界や右翼団体が関わる大きな流れが十分に描けていないのが不満。冒頭、金田龍之介田中角栄のモノマネで始まり、大きなスケールの政治劇を期待したがガッカリ。

俳優陣は豪華。児玉誉士夫をモデルにしたフィクサーを演じているのは佐分利信。こちらは貫禄十分。そしてフィクサーの門下生(実は息子だった)を田村正和がノリノリで演じていて面白い。テロリストの少年(狩場勉)が水浴びしているシーンはヴィスコンティ風味で美しい。惜しいのは女優陣が弱いこと。松尾嘉代の脱ぎっぷりのよさぐらいしか見るべきものがない。

ストーリーがわかりにくいのも難点だが、田中角栄(をモデルとした架空の人物)がテロリストの少年に刺されたのには驚いた。いまでは絶対に撮れない映画だろう。いまで言えば、数年後、モリカケ問題を下敷きにして安倍首相が刺されるという映画である。あまりおもしろくない映画だったが、最後でちょっと見直した。

降旗康男監督は高倉健と組んで多くの映画を撮っているが、今回はあえてそれをはずした作品を見てみた。二本立てはいずれも「代打」で撮った映画だったが、正直あまり感心しない。しかし企画のタイトルにある「職人監督」にはふさわしい作品といえるだろう。