退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『空母いぶき』(2019) / 原作とはまったくの別物のオリジナル。リアリティは皆無

近くのシネコンで映画『空母いぶき』(2019年、監督:若松節朗)を鑑賞。原作はかわぐちかいじの同名漫画。主演は西島秀俊。周囲の評判はサイアクだったので、見るかどうか迷ったが、原作者へのお布施だと思って観てきた。

小説 映画 空母いぶき (小学館文庫)

原作は連載中ということもあり、原作そのままには映画化できない。原作とは似ても似つかないオリジナル・ストーリーになっている。

原作では中国に侵略された日本の島嶼部を、自衛隊が様々な制約下で奪還を図るという話。ところが原作では相手国が中国だったのに対し、映画では「東亜連邦」という仮想の新興国という謎の設定に改変されている。原作は現実を思わせる国際関係を背景に展開する軍事漫画でリアリティが肝だったのにかかわらず、映画にはまったくリアリティがなく、原作の魅力が大きくスポイルされている。もはや原作破壊のレベルである。

まあ中国が日本の島嶼部を侵略するという映画は「大人の事情」で、そのまま映画にできないのかもしれないが、原作者は創作物をこれほど改変されても平気だったのだろうか。小一時間問い詰めたい。映画化を断固拒否する勇気も必要だ。


映画『空母いぶき』予告編

キャストはムダに豪華。秋津艦長(西島秀俊)と新波副長(佐々木蔵之介)は原作のキャラクターを映画に踏襲していて、演技派ふたりの芝居は見応えがあった。しかし、もうひとりの主要人物である垂水首相(佐藤浩市)はちょっとおかしい。原作では有事にあたってリーダーシップを発揮する信頼に足る政治家として描かれているが、映画では決断できない弱い政治家に成り下がっている。俳優の演技の問題ではなく脚本がおかしい。相手国の設定を変えるのは仕方ないのかもしれないが、登場人物のキャラクターまで変える必要があったのだろうか。

またメディアの取材中で有事が発生したので、メディア関係者(本田翼と小倉久寛)が搭乗していたのはいいとして、後方に移送されることもなく部屋から勝手に抜け出して、戦闘を取材して衛星電話で送信。その取材が世論を変えるというご都合主義にも呆れた。私なら、本田翼は無理な取材を強行して被弾して無残に死亡。その様子を小倉久寛が伝える、という脚本にしたい。

その他、コンビニ店長(中井貴一)のシーンが挿入されるのも謎。コンビニの場面は楽しそうに演じていて微笑ましい。あれは平和ボケの日本の象徴という位置づけだったのだろうか。やりたいことはわからなくはないが、編集が稚拙のためせっかくの戦闘シーンの緊迫感が台無しになっている。

軍事的にもいろいろおかしい。いぶきがいきなり被弾するのは愛嬌だとしても、敵艦に対して対艦ミサイルを撃たずに主砲で応戦したり、潜水艦戦闘でも魚雷を発射せずに体当たりしたりしている。潜水艦にいたっては、海自の潜水艦が体当たりでダメージを受けて戦線離脱とか……。もう馬鹿なのと言いたくなる。とてもストレスフルな映画。


西島秀俊×佐々木蔵之介主演!『空母いぶき』第二弾予告映像

極めつけはラスト。国連安保理の理事国の原潜5隻(中国を含む)が、日本と東亜連邦の戦闘を止めさせるように揃い踏み。まったくありえないエンディングは噴飯もの。

もともと期待していない映画だったが、その期待値をさらに大きく下回わる映画もめずらしい。封切りで見ることはオススメできない。地上波で放送するのを待って見れば十分。とくに原作ファンはむしろ見ないほうがしあわせというもの。そんな一本です。

なお、この映画には自衛隊の協力は得られなかった模様。『シン・ゴジラ』には協力できても、『空母いぶき』には協力できないんかい、と思わなくもないが、この映画では、むべなるかな。

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