退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ファースト・マン』(2019) / 人類で初めて月面に立ったニール・アームストロングの伝記映画

新文芸坐で映画『ファースト・マン』(2019年、監督:デイミアン・チャゼル)を鑑賞。人類で初めて月面に降り立った、アポロ11号船長ニール・アームストロング(Neil Armstrong, 1930-2012)の伝記映画。

X-15の飛行実験を担うテストパイロットのニール・アームストロング(ライアン・ゴスリング)は、2歳の愛娘を病気で失う。哀しみのなかNASAの宇宙飛行士に志願して合格する。宇宙開発で先行するソ連に対抗するために、アメリカ政府はジェミニ計画、そしてアポロ計画で人類初の月着陸へと邁進していく。同僚の宇宙飛行士ともに幾多の試練に立ち向かうが、それは多くの犠牲者を伴う過酷な経験でもあった。妻ジャネット(クレア・フォイ)は、常に死と隣り合わせという壮絶なミッションに挑む夫に対して葛藤を抱くが、彼を支えていく……。


First Man - Official Trailer (HD)

過去の制作された宇宙開発の群像劇や宇宙飛行士の英雄譚とは異なり、あくまでもニール個人にフォーカスして物語が進んでいく。ニールの人物設定のせいもあるが全体として暗いトーンの映画である。人類で初めて月に降り立った人物にもかかわらず、これまでほとんど映像化されてこなかったのも納得できる。ちょっと偏屈な人という印象すら受ける。

東西冷戦下のアメリカの宇宙開発を舞台にしているが、プロジェクト自体を丹念に追っているわけでないので、科学的・政治的な描写を期待している宇宙マニアは注意が必要だろう。そういう映画ではなく、むしろ情緒的な映画である。

それでもさすがハリウッド映画であり、宇宙船の場面はよくできている。アナログの計器やスイッチの並ぶ、当時の宇宙船のせまい船内は棺桶のようだし、リベット打ちされた宇宙船も時代を感じさせる。よくこんなので月まで行ったなと思わせる。

封切り時にIMAXで見たかったが、油断して気がつくと上映終了になっていた。おそらく興行成績は芳しくなかったのではないか。


First Man - Official Trailer #2 [HD]

万人受けする映画ではないが、伝記映画としてはなかなか面白い。ニールが月に向かう前の妻の苛立ちは理解できるし、月から帰還して検疫中のニールと面会するラストもよくできている。かつての娘の死が月面での彼の行動で回収されるあたりなど、映画の文法に則っていて安心して見られる。まっとうな伝記映画。

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