退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『餌食』(1979) / 日本では珍しいレゲエ映画。内田裕也とレゲエの取り合わせが不思議

新文芸坐の《追悼 内田裕也 スクリーン上のロックンロール》という追悼企画で、映画『餌食』(1979年、監督:若松孝二)を鑑賞。内田裕也の追悼には外せない作品。

ミュージシャンを目指して渡米したロック歌手・倉本(内田裕也)は挫折し、現地で惚れ込んだレゲエバンド「ソルティドッグ」のカセットテープを手に帰国。このバンドを売り込もうとるすが、かつての音楽仲間たちは金儲けにしか興味がないことを知り、さらに日本そのものが大きく変わったことに疎外感を強める。そうした矢先、昔の女はヘロインで死に、アニキと慕っていた男も殺される。そうしたやり場のない怒りが爆発して……。

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大きなラジカセを担いで東京の街を歩く内田裕也は異様な風体だが、内田にしか出せないオーラを感じる。ただ映画としては、内田の演技はともかく共演者の芝居が素人くさくてどうも没入できないのは難点か。他にいなかったのか。

なお近田春夫カメオ出演しているのも見逃せない。ドラムを蹴って内田に小突かれるちょい役だが、当時に近田さんをスクリーン見れたのはよかった。

全編に流れるピーター・トッシュとマトゥンピのレゲエ音楽は日本映画には珍しい。というか、日本初にして唯一かもしれない。レゲエ音楽は不思議と古びないので、いま聞いてもいい感じで聞ける。内田裕也ならレゲエではなくロックンロールではないのかと思わなくもないが、芝居上の役だから仕方ない。

クライマックでは倉本が弛緩しきった日本に反発するかのように拳銃を無差別に乱射する。旧軍の古い拳銃をビルの上から撃って、そんなに命中するのか。リアリティに欠けているのは残念。

倉本は「おれは音楽に命を賭けているだ」というが、やってることはレゲエバンドを売り込むだけだ。なぜ自分の音楽をやらないのか。この点についても十分な説明がない。せっかく内田裕也が出演しているのだから、スクリーンで歌手としての姿を見たかった。

本作はなぜかDVDになっていないので今回は貴重な上映機会だった。しかしフィルムがひどく褪色していたのは残念。

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