退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

岡田准一主演・テレビドラマ『白い巨塔』(2019年)の感想【前編】

テレビ朝日開局60周年記念 5夜連続スペシャルドラマ『白い巨塔』を見ました。主演は岡田准一。原作は山崎豊子の長編小説。

これまで幾度も映像化されている作品で、1978年の田宮版、2003年の唐沢版がよく知られています。とくに私は田宮版のファンなので、今回の岡田版も制作発表から気になっていました。

ここでは財前五郎が教授になるまでの部分について感想を思いつくままに書いてみます。教授選の最終投票で財前が教授に選出されるまでです(第3話途中)。『白い巨塔』を知っていることを前提にしています。

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尺が足らずに駆け足

全5話だと聞いて「この尺で足りるのだろうか」と懸念して人は多いでしょう。案の定、駆け足でサクサクと進みます。テンポがいいといえば聞こえがよいですが、やはり薄いです。この作品は医療ドラマですが、それ以上に複雑な人間関係が絡み合った人間ドラマのはずですが、それが十分に描けていないのは致命的です。

とくに東教授(寺尾聰)と財前(岡田准一)との確執がどこで始まりエスカレートしたのかがわかりません。普通にコミュニケーションをとっていれば、実力・実績とも十分な財前は自然に教授の座を手中に収められただろうにと思ってしまいます。あれよあれよという間に人間関係が修復不可能になってしまいます。もう少し丁寧に描いてほしいものです。

その他にも教授夫人会「くれない会」の内幕や、財前と里見(松山ケンイチ)の友情、東佐枝子(飯豊まりえ)の里見への思慕の念など、もっと深掘りしてほしかったと思う点は少なくありません。

過去編を映像化したのは新しい

目新しいかったのは、過去のエピソードを映像化している点です。医学生時代の財前と里見が東家で過ごす場面や、財前が財前家に婿養子に入る場面です。従来の映像化作品にはなかったシーンなので面白いアプローチです。

しかし全体の尺が短いのだから、過去編を入れる余裕なんてないのではないかというが正直な感想です。ドラマの本筋に注力するべきではないでしょうか。

野坂教授が女性なのは新しい

教授選で重要な役割を果たす野坂教授が女性になり、 『シン・ゴジラ』で注目を集めた市川実日子が演じているのも新しい。医学部教授にしては若い気もしますが、薄味のドラマなかで「おっ」と思った数少ないキャストです。女性の社会進出が提唱されている現代がよく描かれています。

惜しむらくは、『シン・ゴジラ』のように早口で医学用語をまくしたてるシーンがほしかった。さすがに狙いすぎでしょうか。

例のお気に入りシーンがなかった

教授選で好きなシーンがあります。これが省かれていたのは残念でした。財前陣営の岩田と鍋島が堅物の大河内教授の自宅に現金を届けて買収しようとして逆鱗に触れる場面です。

今回、大河内教授を岸部一徳が演じていたので、どんな芝居を見せてくれるか楽しみにしていましたが残念でした。過去編よりこちらを入れてほしかった。

時代を捉えていたのはよかった

このドラマは令和最初の大型ドラマを標榜していましが、時代性を捉えていたのはよかったです。電子カルテになりカルテをタブレットで参照しているもの新しいですし、中国からの患者が大勢病院に訪れているのも「爆買い」の時代を感じさせます。仮想通貨で損したという教授もいました。

こうした時代を象徴するような道具立ては、後からみると観客にこういう時代だったなと思わせます。これはドラマや映画にとって大事なことだと思います。その点、「現代」を取り込むことに成功していると思います。

まとめ

白い巨塔』のように何度も映像化されている作品は、どうしても過去の作品と比べられてしまいます。今回ドラマ化するにも、さぞ勇気が必要だったでしょう。

まあ正直、やや残念なドラマでした。期待してなかったのでダメージは少ないですが、もしかすると原作者が存命だったら実現できなかった企画かもしれません。

以上、財前が教授になるまでの前半部について感想を書きました。つづきは別の記事に書きます。