退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】正垣泰彦『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経ビジネス人文庫、2016年)

イタリアンファミリーレストランチェーン「サイゼリヤ」の創業者・正垣泰彦氏の雑誌連載を書籍化した本。2011年に刊行された単行本を文庫化したものなので内容は少い古いので注意が必要かもしれない。飲食店経営者に向けて経営を説いた業界誌の連載をベースにしているが、外食産業以外のビジネスパーソンにも有用だろう。

サイゼリアの顧客のひとりとして、そのコスパの高さに感心していたので、飲食店経営には興味がないが読んでみた。なるほど一代のこれだけのチェーン店を築けたのは、しっかりとした経営哲学があったことがよくわかる。

「勝てば官軍」というわけでもないが、一般論として、成功した経営者の語る哲学に耳を傾けることが多いのは事実だが、黒歴史というかスキャンダルについては触れられることはなく、いいことしか書いてないことが多い。さらに現代のように時代の変化も激しいなか、当時はそれが最善だったことがいまでは通用しないこともあるだろう。

それでも「顧客本位」「社会貢献」をモットーとする経営哲学は人の心を打つし、そうした経営哲学があったからこそ成功したと思わせるだけの説得力があることも確かだ。

創業者は東京理科大学で物理を専攻した理系出身の経営。そのためか何事も数値化して考えたり、作業を標準化したりする経営手法は論理的で実に明快だ。量子力学を喩えに引いてくるあたりも理系らしくて面白い。

さらに薄給と言われる外食産業において、従業員に他の業界並の給料を払いたいという意気込みもすばらしい。しかし実際の従業員の給与水準や定着率などはどうなのだろう。バイトやパートを含む従業員たちが本当にしあわせに働いているのか。本書には触れられていないが気になるところである。

最後に本書とは直接関係ないがサイデリヤについて一言。この本を読んでいる間、ふだん行かない駅の反対側まで足を伸ばすなど積極的にサイデリヤで食事をしてみた。依然としてコスパ抜群なのは認めざるを得ないが、その副作用として時間帯や店舗の立地によっては、底辺高校生のたまり場になって動物園のような騒々しさなのは困ったことだ。食事どころではないこともままある。

こちらがTPOを考えればいいだけなのかもしれないが、なんとかならないものか。いい歳してサイデリヤに行くなよ、と言われればそれまでなのだが。