退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】西きょうじ『さよなら自己責任 ――生きづらさの処方箋』(新潮新書、2018年 )

カリスマ予備校講師による『小説新潮』での連載をまとめたエッセイ集。「ポレポレ」のお世話になった人も多いのではないか。他の本からの引用が多く、筆者の主張がわかりにくいのは難点だろうか。

受験に失敗したのは自己責任。正社員になれないも自己責任。こうした自己責任論が蔓延する社会に警鐘を鳴らす。失敗者が必ずしも能力がなく努力も足らなかったというわけでもないことが主張される。

まずタイトルを見たとき予備校講師がこんなこと言うのか、と意外に思った。少なくとも受験の結果は自己責任だろうと思ったからだ。しかし「はじめに」では、さっそくその点について触れていて、読んでみるとなるほどなと思わされた。

この本は自己責任論についても紙幅を割いているが、私がいちばん面白く読んだのは、読書の有用性を説いた「第6章 そもそも、本から得られるものなんてあるのか?」である。そのなかで読書に対する疑念に答えながら「成功している人は読書している」と看破しているて、一読の価値がある。

一方、拍子抜けしたのは、「第5章 そもそも、AI時代に英語を学ぶ必要はあるのか?」というエッセイ。英語の予備校講師が、将来の英語教育についてどのような考えを持っているのか注目していた。

ざっくりまとめると、技術の進歩に伴い実用のみを目標とする英語学習は価値を失うが、やはり英語教育は不要ではないという、よく聞かれる主張である。やはり専門家たちの意見はそのあたりに収斂されるのだろうか。

この章では小学生では英語より国語に力を入れたほうがよいとも書いている。これもよく聞かれる意見だが、実際の英語教育は小学校での英語の教科化など迷走しているように思える。機会があれば、迷走を続ける昨今英語教育や、大学受験生の学力の推移などについても意見を聞きたいものである。

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