退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『WALKABOUT 美しき冒険旅行』(1971) / オーストラリアの大自然なかの残酷美

新文芸坐の《追悼 ニコラス・ローグ》で映画『WALKABOUT 美しき冒険旅行』(1971年)を鑑賞。一日限りのニコラス・ローグ追悼上映。併映は代表作『地球に落ちて来た男』だった。

オーストラリアの都会に育った姉弟ジェニー・アガターとルシアン・ジョン)は、ある日、父親に連れられて砂漠にピクニックに出かける。しかし父親は発狂して二人に発砲した挙げ句に自殺してしまう。砂漠の真ん中に取り残された二人は、飢えと乾きに耐えながら街を目指す。やがて目の前にアボリジニの少年(デビッド・ガルピリル)が現れて……。


WALKABOUT Trailer (1971) - The Criterion Collection

ニコラス・ローグの初期監督作品。撮影監督出身らしい映像美に圧倒される。大きなスクリーンで見る価値のある映画。ときおり挿入される死をイメージするかのようなショットが印象的。昔、この映画を見たとき、「美しき冒険旅行」とう邦題がついている、物語はちっとも美しくないなあ、と思ったものだ。

妹弟はなぜか制服姿でピクニックに出かけて”冒険”を始める。制服を脱いでから再び制服を着るまでは「冒険旅行」というわけだ。彼らは冒険を終えてようやく街に辿り着くが……。このあとはネタバレになるので書くのはやめておこう。

オーストラリアの大自然を背景に、自然と都市、美しさと醜さなどのコントラストによって描かれる観念的な映画。さらに少女(14歳)の白い肢体とアボリジニの少年の黒い肌の対比も見逃せない。公開時、少女の裸体の美しさが評判になったらしいが、現在のレギュレーションだとアウトかもしれない。古き良き時代の映画である。

本作は映像が美しいだけでなく作家のメッセージが強く打ち出されている作品なので、少し身構える必要があるだろう。ぜひ映画館で見てほしい。

ちなみに、原題のWalkaboutというのは豪英語でアボリジニ通過儀礼のことだ。青年期に長い旅に出て、原野での生活を一定期間経験するのだという。アボリジニの少年にとってだけでなく、妹弟にとっても通過儀礼だったろう。果たして彼らは大人になれたのだろうか。