退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『その人は女教師』(1970) / 学生運動を背景した高校生と女教師の悲恋物語

新文芸坐の《「美しく、狂おしく 岩下志麻の女優道」刊行記念 清純、華麗、妖艶 デビュー60年 女優・岩下志麻 さまざまな貌で魅せる》という企画で、映画『その人は女教師』(1970年、監督: 出目昌伸)を鑑賞。松竹の岩下志麻が主演している東宝映画。今回の岩下志麻特集の上映作品のなかでとく見たかった映画。

新宿騒乱の夜に機動隊の追われる高校生・亮(三船史郎)を助けたマキ(岩下志麻)。そんなマキは亮の高校の数学教師として彼の前に再び現れる。マキは闘争に参加した過去がある”闘士”だったが、高校がそんな彼女を採用したのは、生徒の学生運動に対して「毒をもって毒を制す」というねらいがあったからだ。そして、いつしか亮はマキを愛するようになり、マキもそれに応えてふたりの間に愛が芽生える。やがてマキの友人の別荘で愛を交わすようになるが、当然、亮の家族はふたりの関係に大反対だ。ついに亮の父親はマキを誘拐犯として告発し、マキは逮捕される。これに抗議して亮は自殺を遂げ、留置所が出たマキは慟哭するのだった。

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岩下志麻は当時29歳だったが、相手が自殺したことを知ったあとで慟哭する場面や、留置所内での汚れ役など、すでに大物女優の片鱗を見せている。一方、相手役の三船史郎三船敏郎の息子)がヘタすぎて岩下の芝居に受けきれずに残念なことになっている。三船は見た目はシュッとしてギラギラしていてそれらしいのだが……。要は釣り合っていないのだ。なぜキャスティングされたのだろうか。

恋愛モノとしてもしっくりこない。どうしてふたりが惹かれ合ったのかわからない。恋愛の描写が雑なのではないか。年上の女教師と男子高校生の恋愛という禁断の愛を学生運動の時代を背景にして描くというテーマがピンとこない。学生運動に参加する学生に秩序の何たるかを示す体制側と学生たちとの対立関係を、ふたりの恋愛に重ねて見ればいいのだろうか。

制作側にどんな思い入れがあったかわからないが、結局、岩下志麻三船史郎の濡れ場が見どころという映画になっている。「岩下が脱ぐ」というその一点。が、肝心の濡れ場のいいところは、あからさまなボディダブルでがっかり。岩下志麻のガードは固い。

ラストは亮の葬式の場面である。焼香しようとマキが現れるが、親類一同は「帰れ」と追い返そうとうする。そのとき生徒たちが立ちふさがりマキを守る。しかし果たして生徒がそういう行動をとるだろうか。説得力がない。「そうはならんやろ」とつっ込みたくなる。

いずれにしても中途半端な映画。期待していただけに落胆も大きい。まあDVDになっていないお宝映画なので一度は見ておくといいだろう。

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