退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『忍ぶ川』(1972) / 加藤剛と栗原小巻によるメロドラマ

新文芸坐の《端正な美貌、知性あふれる演技 追悼・加藤剛》で映画『忍ぶ川』(1972年、監督:熊井啓)を鑑賞。原作は三浦哲郎芥川賞受賞作。白黒スタンダード映画。加藤剛栗原小巻によるメロドラマ。

青森の呉服屋の息子・哲郎(加藤剛)は、東京の大学の卒業祝いの席で料亭「忍ぶ川」の看板娘・志乃(栗原小巻)と知り合う。二人とも深川に縁があることを知り、連れ立って出かける。その場で志乃は、遊郭「洲崎パラダイス」で生まれ育った生い立ちを隠さずに告げる。一方、その率直さに好意を抱くも哲郎には「滅びの血」とも言える、話すに話せない秘密があった……。

教科書に出てきそうなベタなメロドラマ。見ているこっちが恥ずかしくなる純愛物語。なぜ監督が原作に入れ込んでいたか分からないが、映像的には見るべきものがある。

この時期はカラー・ワイドスクリーンで撮るのが当たり前になっていたが、本作は作品性を考慮してあえて白黒スタンダードで撮影されている。それが見事に奏功している。前半の東京のシーンはカラーで撮ればいいのにと思ったが、舞台が哲郎の故郷の雪国に移ってからは白黒映画を選んだ理由がよくわかる。雪は白黒映画に限る。さらに初夜のシーンの白黒映像の美しさもすばらしい。

ただし志乃のカマトトぶりを見せられると、すっかり汚れてしまった私などは、哲郎は志乃に騙されているのではないか、また初夜でも哲郎は経験豊かな志乃に翻弄されていただけのでないかと疑ってしまう。哲郎の故郷での夫婦生活も破綻が見えているように思うのは私だけだろうか。

当初、ヒロイン志乃役は吉永小百合で構想されていたが実現せず、最終的に栗原が起用されたという。吉永が演じたらどんな映画になっていただろう。それでも原作のイメージとよく合っていたことや、初夜の場面の美しさから、本作は栗原の代表作になっている。今回は加藤剛の追悼企画だったが、なんといっても栗原の映画である。

加藤と栗原は何度も共演していて、当日の併映作『子育てごっこ』でも教師夫婦を演じている。ふたりは「忍ぶ川」コンビといってもいいだろう。

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