退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『猟人日記』(1964年) / 中平康監督によるスタイリッシュなエロティック・ミステリー

神保町シアターの《1964年の映画 東京オリンピックがやってきた「あの頃」》という企画で、映画『猟人日記』(1964年、監督:中平康)を鑑賞する。シャンソン歌手としても知られた戸川昌子の同名ミステリー小説をスタイリッシュに映画化。原作者の戸川も出演している。日活映画。白黒映画。なおツルゲーネフとは関係ない。

コンサルタントの本田一郎(仲谷昇)は外国人とのハーフに化けて、多くの女性たちをガールハントし、その情事の様子を「猟人日記」に克明に記録していた。ある日、かつてガールハントした女性が殺害される事件が起きる。一郎は偶然かと思いガールハントを重ねていたが、再び以前ガールハントした女性が殺される。さらにアリバイ証言をしてくれるはずの女性まで殺される。何者かの罠にはまったのだ。濡れ衣きせられたまま殺人犯として逮捕され、一審で死刑判決を受ける。

一郎の義父から彼の弁護を依頼された、畑中弁護士(北村和夫)と助手(十朱幸代)は一郎の無実を証明するために捜査を始める。次々に関係者に会いながら謎解きに挑む畑中弁護士は、「猟人日記」の存在を知り、留置中の一郎に日記を再現をさせる。これをもとに、ついに真犯人をつきとめ、一郎は無罪釈放となるが……。

このように映画前半は一郎のガールハントと奇妙な性生活をヱロチックな演出で描き、後半は一郎の無実を証明するために奮闘する畑中弁護士の中心と据えたサスペンス映画になっている。一粒で二度美味しい映画である。北村和夫の演技が冴えている。

推理映画なので真犯人を明かすネタバレは避けるが、スタイリッシュな映画とは相容れないようなドロドロした展開にぞっとする。使われているトリックは、現代の科学捜査の水準に照らすとかなり稚拙で、これで警察を欺けるのかと思うが、当時の捜査はこの程度だったのだろう。

中平康のスタイリッシュな映像が楽しめる一本だが、惜しいことにDVDが出ていないようだ。機会があれば一度見てみる価値はある。中平康はもっと評価されてもいい。