退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『はだかっ子』(1961) / 田坂具隆監督によるジュブナイル映画の大傑作

シネマヴェーラ渋谷の《女優 有馬稲子》 で映画『はだかっ子』(1961年、監督:田坂具隆)を鑑賞。戦争で父を亡くした少年は、母とともに貧しい生活を余儀なく送っていたが、小学校の先生や周りの人たちの支援により、たくましく生きていく姿を描く。児童映画の傑作。

インドネシア戦線で父を亡くした小学六年生の元太は、母と貧しい生活を強いられていたが、男気のある真っ直ぐな性格でクラスメートの人気者だ。担任(有馬稲子)の引率で学校行事でユネスコ村へ写生に出かけたり、女性のクラスメートとふたりだけで西武園ゆうえんちに遊びに行ったり、さまざなイベントを通して少年の日常生活が描かれる。しかし母親(木暮実千代)が病死するという不幸が元太を襲う……。

この映画は小学校教師を演じた有馬稲子主演となっているが、やはり元太少年が主役であろう。彼の級友たちも素晴らしく、児童映画の名手と知られる田坂監督の面目躍如というところであろう。ちなみに同級生役のひとりは風間杜夫だったというが特定できなかった。

またこの映画は、所沢、狭山、入間あたりの地域のある時代の記録映像としても貴重。この地域に土地勘がある者にとっては懐かしいだろう。とくに旧ユネスコ村は、物語のうえでも元太がインドネシアで戦死した父親に思いを寄せる場として重要な役目を果たしている。また米軍が駐留していた入間基地についても、同級生の姉が米軍兵士と結婚して立派な官舎に住んでいるなど、当時の様子がうまく描かれている。

この映画では母を失った元太のその後は描かれておらず、小学校の日常が再び始まるという終わり方である。まだまだ貧しい日本は、その後高度成長期を迎え、奇跡的な経済発展を遂げるのだが、元太少年はその波に乗れたのだろうか。そんなことを思いながら終映した。

さて肝心の有馬稲子については、世界平和を希求するユネスコ憲章の授業が印象に残る。日本が貧しいく、満足に食べることもできない人たちが大勢いるのに、ユネスコ憲章でもあるまいにと思ったが、当時は実際にこのような授業がなされていたのだろうか。だとすれば、教師たちはずいぶんズレていたなと思わざるを得ない。

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