退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『バンコクナイツ』(2016) / 日本人が撮った「アジア映画」

新文芸坐の恒例企画《気になる日本映画達2017》で映画『バンコクナイツ』(2016年、監督・出演:富田克也)を鑑賞。上映時間が3時間超の長尺のため1本立ての上映だった。

映画評が高評価だったことや予告篇に惹かれたとに加えて、『サウダーヂ』(2011年)と同じように今後もソフト化されないと聞いたので映画館まで足を運んで見てきた。

バンコクの日本人向け歓楽街タニヤ通り。日本での居場所をなくした元・自衛官のオザワ(富田克也)は、かつて恋人だったNo.1ホステスのラック(スベンジャ・ポンコン)と再会する。元上官からラオスの不動産についての現地調査を依賴されたオザワは、ラックとともに彼女の故郷であるラオス国境の街に向かう。


『バンコクナイツ』予告編

歓楽街が舞台だが、過剰な性描写はなく、日本などの外国から性を求めてくる金持ちがちが生々しく描かれる。さらに、その残念な金持ちの日本人に群がって生計を立てる、「沈没組」にを呼ばれる現地日本人がフォーカスされる。あまり共感できない種類の人たちだ。

一方タニヤ通りには、タイの地方都市からバンコクに出稼ぎにきて一家を支えるラックのような女性たちもたくさんいる。「タイの男性たちはいったい何やってるのだろう」と思わなくもないが、これがタイの現状、そしてこの映画の背景になっている。

この映画にはコアとなるようなテーマは感じられない。断片的なエピソードの集合にすぎない。深読みすれば、帝国主義の犠牲者などというさまざまな大きな問題を提起していると解釈もできるが、映画が長すぎて却ってテーマがボケていうように思った。それでも3時間を長く感じさせずに、スクリーンに惹きつけられた。商業的な娯楽映画にはない魅力がある。

とくに地方都市の風景や生活が印象に残った。どこか昔の日本の農村に通じるところがあると感じたが、メコン川(?)の空撮映像を見るとやはりインドシナ半島だなと確認できる。

この映画の魅力は、知らないことをスクリーンで見せてくれることだろう。タイの地方都市の風景・風習、バンコクの喧騒と性風俗ラオスとタイの関係など、自分か何も知らないことに気が付く。タイは、多くの日本人にとってアメリカやヨーロッパよりも遠い国なのかもしれない。

最後に役者について一言。自ら出演するなど素人に演じさせているのは、監督のこだわりなのだろうが、棒読みや滑舌の悪さが延々と続くのは正直ツラかった。次回作は一考してほしい。

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