退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『カティンの森』(2007) / ”カティンの森事件”を題材にしたポーランド映画

DVDで映画『カティンの森』(2007年、監督:アンジェイ・ワイダ)を鑑賞。第二次世界大戦中、ソ連軍のポーランド侵攻に際し、1940年にソ連内務人民委員部(KGBの前身)が、捕虜になった約15000人のポーランド将兵を虐殺、カチンの森に埋めたとされる「カティンの森事件」を題材した映画。戦争に翻弄される人間の運命を描く。

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監督の父親も同事件の犠牲者だというから、撮るべき映画人が撮った戦争映画である。なんともやり切れなくなる痛ましい作品。ハリウッド映画で描かれる戦争とは、まったく異なるテイストで描かれる戦争は生々しい。それでいて全編が上質な作品に仕上がっているのは監督の手腕であろう。80歳で撮ったとは思えない。

映画としては終盤に散漫な部分もあるが、なんと言ってもラストの“虐殺シーン”は衝撃的。この映像には見るものを黙らせる迫力があり、何度見てもインパクトは薄れない。ソ連の行為は明らかに国際法違反の戦争犯罪であり、さすがのソ連も90年代にポーランド政府に謝罪している。

日本も第二次世界大戦では悲惨な体験をしているが、この映画のように真摯に戦争に向き合った日本映画がすぐに思い浮かばないのは残念。


映画「カティンの森」アンジェイ・ワイダ 予告編

余談だが、世界史でロシアとドイツに挟まれたポーランドは二度消滅したと教えられた人も多いだろう。最初は18世紀末の「ポーランド分割」である。ポーランドは政治的に「何も決められない」状態に陥ってしまい、隣国のロシア、オーストラリア、プロイセンの三国がポーランド貴族を買収して自国の領土にしてしまう。

その後、ロシア革命に乗じてポーランドはいったん独立を回復するが、第二次世界大戦で、独ソ不可侵条約の裏で結ばれたヒトラースターリンとの密約により再び独ソ両国により分割されてしまう。戦後はソ連の衛星国として共産主義を押し付けられて、自由になれたのは冷戦終結後である。

地政学でよく引き合いにだせれるポーランドだが、この映画は国が滅びるとはこういうことだということも教えてくれる。海に囲まれている日本は幸運だったといえるだろう。