退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ドリーム』(2016) / マーキュリー計画に貢献した黒人女性のいい話

近くのシネコンで映画『ドリーム』(2016年、監督:セオドア・メルフィ)を鑑賞。実話を基にしたストーリー。アメリカ初の有人宇宙飛行計画・マーキュリー計画に多大な貢献をした黒人女性たちの伝記物語。差別と偏見を乗り越えて偉業を成し遂げるという「いい話」だ。

原題はHidden Figuresという。figureが「人物」と「数」の両義をもつことを活かしたナイスなタイトルだったが、邦題は『ドリーム』をなっている。映画化もされたミュージカル『ドリームガールズ』を意識したものだったのだろうか。「ドリーム」も悪くないが宇宙開発に関連した邦題の方がよかったかもしれない。

東西冷戦下、1960年代のバージニア州が舞台。アメリカ南部では依然として有色人種を差別する隔離政策が行わていた時代。数学が得意な黒人女性のキャサリンタラジ・P・ヘンソン)は、同僚のドロシー(オクタヴィア・スペンサー)とメアリー(ジャネール・モネイ)とともにNASAの研究所で働いていた。

宇宙開発でソ連に遅れを取ったアメリカでは、有人宇宙飛行への圧力が高まってきた。そんななか、キャサリンは宇宙開発を推進するスペース・タスク・グループ(STG)で計算手として作業することを命じられる。黒人初のスタッフとなった彼女だったが、建屋に黒人向けのトイレがないなど劣悪な環境での勤務を強いられるが、持ち前の数学の能力を発揮し次第に上司や同僚からから認められるようになり、ついにマーキュリー計画において多大な貢献をすることになる。

「ドリーム」オリジナル・サウンドトラック

こんな話だが基本的に差別を乗り越えて偉業を達成するという「いい話」なので、ストーリーとしては面白味がないが、事実を基にしているのだから仕方ない。3人の黒人女性のエピソードを羅列しただけの構成も、もう少しなんとかなったのではないか。

数々のエピソードのなかでは、NASAIBMメインフレームが導入されることになり、独学で計算機について学び、他の黒人女性を引き連れて計算機室に乗り込んでいくシーンは胸が踊った。FORTRANの本を図書館から「拝借」するところも面白い。

またキャサリンの上司でSTGの責任者役のケビン・コスナーは美味しい。有色人種用のトイレの表示を叩き壊すなど、職場の有色人種差別を撤廃していくのはかっこいい。彼はいつもチューインガムを噛んでいたのが、史実ではヘビースモーカーだったのだろうか。気になって仕方なかったが、史実でもいまでは映画の中でタバコをスパスパやるのは無理なのかな、とも思った。


Hidden Figures | Teaser Trailer [HD] | 20th Century FOX

あと個人的にはメインフレームが動き出すシーンも感慨深かった。大学でFORTRANの授業があり、最初はパンチカードでコーティングさせられた記憶がある。正確には穿孔カードではなく鉛筆でマークするタイプのカードだったが、映画でカードリーダーがカードが読み取るシーンが懐かしかった。当時既に端末があったのに、教員がなぜカードでコーティングさせたのか謎だが、いまとなってはいい思い出だ。

この作品はおよそ50年前の実話を描いた映画だが、その後の技術進歩のめざましさを感じさせられる映画でもある。いまでは手のひらにiPhoneがあるのだから驚きだ。「人類は着実に進歩している」と思った。