退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】『分断社会ニッポン』(朝日新書、2016年)

本書は、井手英策 、佐藤優前原誠司による鼎談集である。選挙前に前原誠司氏が何を考えているのかと思ってこの本を手にとった。

分断社会ニッポン (朝日新書)

分断社会ニッポン (朝日新書)

前原は民進党の代表に選出されながら事実上の解党を道を選び、野党再編が進むなか2017年の衆院選を迎えることになった。正直、この本を読んでも前原が何を考えているのは分からない。断片的にはなるほどと思えることもあるが、政治的にどのように実現していくかがさっぱり分からない。どこか他人事のようで、机上の空論という言葉がぴったりだ。これを読む限り、政治家として何事も成し遂げることができそうにないように思えたが、評価は今後の政治活動のなかで示されるであろう。

それでもこの鼎談集には見るべきものが多々ある。巻頭に井手英策の「努力するチャンスすら奪う社会」という書き下ろしがある。ここで日本が所得、世代、地域、性別など社会のいたるところから分断社会に向かっていることに対する危惧が表明されるとともに、さまざまな問題提起がされる。これを読むだけでも価値があると思う。前原が傾倒しているのも納得できる。

その後、鼎談でテーマごとに掘り下げていくことになる。そのなかには新しい視点が示されて刺激を受けた部分もある。しかし、どうしても正直対談集とか鼎談集は苦手である。長々と話していると誰の発言かわからなくなる。その都度、前に戻って確認するから読むのに時間がかかって仕方がない。だれかまとめてくれないものだろうか。

前原に話を戻すが、佐藤優の書き下ろしのなかで、前原は母子家庭に育ち、魚市場で働きながら苦学して京大を出たことに触れられていた。自ら苦労人だと吹聴することもなかったのだろうか、こはちょっと意外に思い驚いた。しかしこうした背景があるからだろうか、前原の言動には、努力すれば社会をのし上がれるはずだ、努力しないやつが悪い、ぐらいに思っているに違いないと思わさせることがあったので、その点は納得できた。

ただ、この本でも示されているとおり、今の時代に「苦学して京大に行けるのか?」と言われと、なかなか難しくなっているのではないだろうか。この点について、前原は今後の政治活動でどのような答えを出してくれるのか注目していきたい。

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