退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】前田正子『保育園問題 - 待機児童、保育士不足、建設反対運動』(中公新書、2017年)

昨年、「保育園落ちた日本死ね!!!」という下品な匿名ブログが話題になり、保育園問題が一躍注目を集めるようになった。どうしていつまでも保育園問題が解決できないのか、以前より気になっていてので本書を読んでみた。

要は東京一極集中に代表される都市問題、そして保育士の処遇などの労働問題に起因する問題であり、自治体の努力だけでは一朝一夕には解決できない日本社会に深く根ざした多様な問題の一面にすぎないことがよく分かる。

本書の著者は横浜市副市長を経て研究者として活動していて方で、ご自身でも子育ての経験があるという。特に行政からの視点で保育園問題を網羅的に捉えているのは新鮮だった。問題をざっくり把握するためには滴書だと思う。

いくつも発見があったが、二つだけ下に挙げておきたい。

第一は、保育園を簡単に増やせない理由で最も深刻なのは「保育士不足」だということ(p.93)。有資格者はいるが保育士として働く人が少ないのだ。保育士の待遇が悪いことは広く知られるようになり、各自治体では独自に給与を上乗せするなどの対策をとっているが、それでは人材を確保できないという。

この本では給与を上げるだけでは十分ではなく、プロフェッショナルとしての専門性を満足させて、保育士という職業にやりがいを感じてもらえるようにする必要があると説く。たしかに保育士を見下す保護者は多いし、実際、都心部では学歴やキャリアを考えると仕方ない面もあるが、いまのままでは保育士を確保するのは難しいというのも納得できある。

第二は、「保育バウチャー」は機能しないと一刀両断していること(p.164)。この制度は保育園に補助金を出すのではなく、保護者にクーポンを配布して自由に使ってもらうという考え方。1996年にイギリスで実験的に導入した例を引いて問題点を指摘している。

個人的に保育園問題を解決するには、「保育バウチャー」を導入して市場原理に頼るしかないと思っていたが、それほど簡単ではないらしい。ただしバウチャーについての議論にはあまりページが割かれておらず不十分な気もする。日本でも試験導入をしてみればいいのにと思う。国際戦略特区で獣医学部を新設できるぐらいなのだから、保育園でもいろいろやってみればよい。

最後になるが、保育園問題が長年解決できないのにはそれなりに理由があることがわかった。根本的に解決するには以前読んだ、『保育園義務教育化』(古市憲寿著、2015年 )にあるような思い切った発想の転換が必要なのかもしれない。

【参考記事】

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