退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『海よりもまだ深く 』(2016) / 中年男性には身につまされる映画

新文芸坐で映画『海よりもまだ深く 』(2016年、監督・脚本:是枝裕和)を鑑賞。主演は阿部寛

作家の篠田良多(阿部寛)は15年前に一度文学賞を受賞したが、それ以後は鳴かず飛ばず。興信所に勤めて糊口をしのいでいる。そのくせ無類のギャンブル好きで稼ぎがあればそれにつぎ込む始末。そんな彼に愛想を尽かした妻・響子(真木よう子)と離婚して久しいが、養育費の支払いは滞りがちだ。良多の楽しみは唯一の月に一度、一人息子の真吾と会うことだった。良多は真吾と会う日、台風が接近したため親子三人は、母親・淑子(樹木希林)の団地の一室で一夜を過ごすことになる。

阿部寛樹木希林の親子は前にどこかで見たような気がしたが、同じく是枝監督の 映画『歩いても 歩いても』(2013年)でも親子を演じている。よほど気に入っているのだろうか。ちなみにその時の妻役は夏川結衣だったが、今回のパートナーは真木よう子になり少し若返った。

淑子の住んでいる団地は是枝裕和が実際に住んでいた清瀬市の団地が使われている。西武池袋線の風景も登場して、沿線住民にはうれしい舞台設定。首都圏近郊の団地特有の雰囲気を懐かしく思う人も多いだろう。

良多がしんみりと母に向かい「すみませんね。甲斐性なしの息子で」という場面が胸に迫る。そろそろ中年の域に達し、人生の先が見えてきたことを悟っての一言だろう。うだつの上がらない私にとっても耳が痛い。それでも良多はバツイチとはいえ一度は真木よう子と家庭を持ったのだから幸せだろう。なにせ真木よう子だから。

劇中テレサ・テンの「別れの予感」が通販で買ったというラジオから流れてくる場面も効果的。映画『歩いても 歩いても』で、いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」が使われていたのとかぶるが、歌謡曲好きには堪えられない演出。

台風が去り晴れ渡った朝、親子三人は団地を出てそれぞれの道を歩み始める。何が解決したというわけではないが、後味のいいラストだった。


映画『海よりもまだ深く』予告編