退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『海と毒薬』(1986) / 遠藤文学不滅の傑作の映画化

早稲田松竹で映画『海と毒薬』(1986年、監督:熊井啓)を鑑賞。

マーティン・スコセッシ監督『沈黙-サイレンス‐』の公開記念の企画上映。遠藤周作の同名小説の映画化。白黒映画。当日は遠藤周作作品の二本立て上映だった。

海と毒薬 デラックス版 [DVD]

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映画では舞台を「九州のF帝大」とぼかしてあるが、太平洋戦争末期に実際にあった「九州大学生体解剖事件」を題材している。B29の搭乗員だった米軍捕虜に対して行われた生体解剖実験に立ち会った若き医師(奥田瑛二)の葛藤を通して、生命の尊厳を問うのみならず、キリスト教的な神を持たない日本の文化風土をも描く。

まず当時の手術室を再現したセットが印象的だった。制作当時はCGなど使えなかっただろうが手術の場面にはリアリティが感じられた。白黒映画ながら心臓などの被験者の臓器が映されているが、もちろん動物の臓器なのだろうがグロテスクだった。カラーじゃなくてよかった。

不満があるとすれば宗教観が希薄なこと。キリスト教的なモノの代表として、橋本教授(田村高廣)の夫人・ヒルダ(ワタナベ・マリア)が登場する。教授がドイツ留学中に知り合ったという設定だ。ヒルダが、上田看護婦(根岸季衣)が患者に致死量を超える薬品を投与しようとしたのを咎めて、神がどうのこうのと厳しい言葉を投げつでる。そのため上田がヒルダを恨むようになる。

それを伏線にして生体解剖実験の後で上田が教授の非人道的行為をヒルダに告げるシーンがあるかと思ったが何もなかった。教授夫妻の宗教観の対立を描くのかと期待したが肩透かしだった。

ラストは軍事裁判の結果がナレーションが流れて駆け足で終劇となる。もう少し生体解剖の後日談があってもよかったかもしれない。

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