退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】田代真一郎『「英語が話せない、海外居住経験なしのエンジニア」だった私が、定年後に同時通訳者になれた理由』(ディスカヴァー携書、2015年)

定年までサラリーマン・エンジニアとして過ごし、定年後にプロの通訳者に転身。長いがインパクトがタイトルに惹かれ、決して若くない年齢でどうしてそうしたことが可能なのかと思い本書を手に取ってみた。

本書では一貫して「仕事を通じて英語を身につける」ことの有効性を説く。英語コミュニケーション力は「英語力」と「知識・経験・情報」の積だという考え方は納得できる。

「自分の仕事のことを英語で言える」ことを目指すことが、英語を身につけることのいちばんの近道だという。自分の専門分野(興味のある分野と言い換えていい)を軸に英語学習するのはまったく正しいと思われる。英語「で」専門分野のコミュニケーションを考えるのが大切なのだろう。

ただし、タイトルにある「海外居住経験なし」にはウソはないが、筆者の場合、勤務先が外資系企業に買収され、否応なしに仕事に英語が必要になったという事実は見逃せない。

業務上英語が必要な環境に放り込まれたことによりモチベーションを保てたとも言える。そうでもなければ、なかなか英語習得のモチベーションは保つことは難しいだろう。そうした意味では万人に通用する話とは言えないのかもしれない。

また本書には筆者が実践したさまざまな学習法が紹介されているが、通訳にまでなった経験に基づいているので説得力がある。年配者だけでなく若い世代の読者にも役立つ内容があるだろう。単語帳をエクセルでつくるのは地味だが、みんなやってるんだなとニンマリした。

面白いと思ったのはサラリーマン時代に英語を習得する際に、大学受験の勉強が役に立ったと述べている点である。プロフィールから筆者が大学受験を経験したのは60年代終盤と思われる。受験英語などは役に立たないと散々に揶揄されてきたが、これを役に立ったと評価しているのは意外に思えた。

いまの世代の受験英語は昔とはまったく別物だろうが、将来役に立つと評価されるか興味のあるところである。
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