退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014) / シュテファン・ツヴァイクに捧ぐ

DVDで映画『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年、監督・脚本:ウェス・アンダーソン)を鑑賞。ヨーロッパ大陸の東端にあるという仮想の国ズブロフカ共和国が物語の舞台。ある高級ホテルのカリスマ的コンシェルジュである初老の男・ムッシュ・グスタヴ・H(レイフ・ファインズ)と若いベルボーイのゼロ(トニー・レヴォロリ)の交友を描いた作品。

冒頭に「モニターを16:9に設定してくださいと」をメッセージが出る。変な映画だなと思ったがそれには理由があった。この映画には、1932年と1968年、1985年の3つの時間があり、それぞれを3種類のアスペクト比を使い分けることで入れ子構造を表現するという凝った構成になっているからだ。

この高級ホテルの富裕層の宿泊客はコンシェルジュムッシュ・グスタヴ・Hの「おもてなし」を目当てに訪れる。その常連客のひとりはマダムDが急死したことによい、グスタブは相続争いに巻き込まれる。愛弟子のベルボーイ・ゼロの協力のもとコンシェルジュのネットワークを使い逃避行を続けながら、真犯人を探しだそうとする。

ウェス・アンダーソン監督らしい映画。かつての帝国の栄華を示すグランド・ブタペスト・ホテルの豪華さ、ヨーロッパの美しい山々など画面の美しさは見事。衣装もすばらしい。クラシカルなのにポップな独特の雰囲気が魅力的である。

この映画は仮想の国が舞台になっているが、ハンガリー共和国がモデルで、ホテルはウィーンにあるのだろう。かつての帝国の栄華というのは、ハプスブルク家オーストリア=ハンガリー帝国のことだし、ファシズムの台頭はナチス・ドイツを指している。


THE GRAND BUDAPEST HOTEL - Official International Trailer HD

エンドクレジットに、「シュテファン・ツヴァイクの著作にインスパイアされた」と献辞が表示されるが、ここは重要だと思うが字幕は付かない。シュテファン・ツヴァイク(独: Stefan Zweig)はユダヤ系の評伝を得意にする作家で、日本では池田理代子のコミック『ベルサイユのばら』のネタ本である『マリー・アントワネット』の著者として知られている。彼の人生とこの映画を重ねてみるのも一興だろう。

監督はツヴァイクの本と偶然出会い、この映画を構想したという。さすがと言うほかない。

グランド・ブダペスト・ホテル オリジナル・サウンドトラック