退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『哀しみのベラドンナ』(1973) / 虫プロ制作の成人向けアニメーション映画

シネマヴェーラ渋谷の《開館10周年記念特集II シネマヴェーラ渋谷と愉快な仲間たち》の【小西康陽セレクション】で映画『哀しみのベラドンナ』(1973年、監督;山本暎一)を鑑賞。虫プロダクション制作の劇場用成人向けアニメーション。今回が初見。

哀しみのベラドンナ [DVD]

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中世フランスの農村が舞台。より強烈なエロティシズムと沈痛なリリシズムで、愛する夫のために悪魔に肉体を売った女性、ジャンヌの哀しき物語を描く。文芸的というだけでなく、随所に直接的な性的描写も見られ、その点でも成人向けアニメーションと言える。

救いようのないストーリーをどのように収拾するのかと思っていたら、火あぶりになったジャンヌの精神が後年のフランス革命につながったというまとめ方で拍子抜けした。バスティーユ襲撃の場面やドラクロワの《民衆を導く自由の女神》がスクリーンに映されたが、これで本当にいいのだろうか。ちょっと安易ではないか。

映像的には実験的な手法が取り入られていて、深井国のイラストのイメージで全編を構成し、従来のセル画のテイストを極力廃し、静止画を多用した斬新な演出が斬新だ。

アート的には見るべき点が多い作品だが、こうした実験的なアニメーションが興行的に成功するはずもなく、いままであまり振り返られることのなかった作品だろう。上映機会もそれほど多くないだろうが、ぜひ一度見ておくとよいだろう。


ベラドンナ予告編

残念なのは映像が素晴らしいのに対し、音楽はやや古臭い。浪花節ではないが演歌のような野暮ったい主題歌はいただけない。音楽にも映像の力に負けないクオリティがあればさらに素晴らしかっただろう。

また劇場で音量が大きくなると音が歪んでいたのは惜しい。元の素材が歪んでいたのか、上映環境のせいなのかわからないが残念だった。

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