退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

オールナイト:「イップ・マン」時系列一挙上映!

先日、新文芸坐のオールナイト「これが漢(おとこ)の生きる道 『イップ・マン』時系列一挙上映!」に行ってきました。大スクリーンで見るカンフー映画は最高です。

イップ・マン(葉問)は実在した香港の武道家詠春拳)で、ブルース・リーの師匠としても知られています。今回はイップ・マンを主人公とした映画から4本を選び、公開順ではなく、イップ・マンの少年・青年期から晩年までに至るまでの時系列に沿った順番で上映する企画です。

『序章』『葉問』は二部作(昨年、三作目が公開されたようですが未見)ですが、4本の映画には連続性はなく、別々の作品と考えた方がよいでしょう。

上映された作品は次のとおりです。

イップ・マン 誕生(2010)

□監督:ハーマン・ヤウ 出演:デニス・トー

若き日のイップ・マン(デニス・トー)を描く。幼い葉問・イップ・マンが、義兄(ルイス・ファン)とともに詠春拳の達人(サモ・ハン・キンポー)の下で武術の修業を始める。

少年期のイップ・マンは、義兄のほかに幼なじみの娘とともに三人で仲良く過ごす。この娘が折にふれて揚げパンをつくるので、私は勝手に「揚げパン娘」と名付けることにした。この揚げパン娘が、名家の娘と恋仲になるイップ・マンが対し悋気するのが香港映画らしくて楽しい。結局、この娘はイップ・マンの義兄と結婚しることになるが……。

青年になったイップ・マンはイギリス系の大学に留学するため香港に旅立つ。彼は裕福な家のボンボンだったのだ。香港では無礼なイギリス人をやりこめたり、薬局のオヤジ(イップ・チュン)から改良された詠春拳を学び成長していく。

留学を終えて佛山に戻ったイップ・マンは次第に陰謀に巻き込まれる。義兄は実は日本軍の間諜だったいうオチは安易すぎるが、すべて日本軍が悪いというのはわかりやすい。日本軍の放った刺客たちを相手にイップ・マンがお暴れして、すっきりという映画です。で、揚げパン娘はどうなったんだろう……。

イップ・マン 序章(2008)

□監督:ウィルソン・イップ 出演:ドニー・イェン

舞台は1930年代の中国広東省佛山。イップ・マン(ドニー・イェン)はすごい屋敷に住んでいて裕福な暮らしぶり。ブルジョアですね。そして佛山で道場を開こうとする武道家が家まで押しかけてきてイップ・マンに挑戦する。屋敷内での戦いが最初の見どころ。息子が三輪車で無邪気に戦いの場に入ってくるところがコミカルでいい。イップ・マンはこの戦いに勝ち地元で名声を手にする。

その後、日中戦争が起こり佛山は日本軍に占領される。屋敷を日本軍に接収され資産を失ったイップ・マンはその日の暮らしに困るほど生活に困窮する。

日本軍将校・三浦(池内博之)は武道を探求するため、中国拳法の使い手と日本兵士を道場で戦わせていたが、拳法家に犠牲者がでる事態に至る。怒ったイップ・マンは10人の兵士に挑み鬼神のような強さで圧勝する。このシーンんが本作最大に見どころ。

イップ・マンの腕前を認めた三浦は中国拳法を日本軍兵士に教えるように強要するが、イップ・マンは拒否してふたりの対立がエスカレートしていく。

ついに三浦とイップ・マンは公開の場で戦うことになり、死闘の末、イップ・マンが勝利して中国民衆が大喜びという結末。

イップ・マン 葉問(2010)

□監督:ウィルソン・イップ 出演:ドニー・イェン

舞台は1950年イギリス統治下の香港。家族を連れて佛山から移住したイップ・マン(ドニー・イェン)は、道場を開こうとするが、香港を仕切る洪拳の師匠ホン(サモ・ハン・キンポー)が立ちふさがる。二人の戦いは勝負は就かなかったが、弟子の乱暴な振る舞いのため道場を失ってしまう。

そうしたなか中国拳法を侮辱したイギリス人ボクサーに立ち向かったホンが、死闘の末、リング上で死亡する事件が起こる。イップ・マンは中国拳法の名誉のために、そのボクサーと命がけの戦いに臨む。この流れは『ロッキー4』と同じか。

途中でイギリス側に蹴り技を封じられるという困難にも負けず、イップ・マンはボクサーに勝利して、またもや中国民衆が大喜びという結末。

この『序章』『葉問』は二部作は音楽を川井憲次が担当していて、全編ゲームのような雰囲気がある。映画館の音響装置で聞くと気分が上がって高揚感があり、カンフー映画によくマッチしている。

イップ・マン 最終章(2013)

□監督:ハーマン・ヤウ 出演:アンソニー・ウォン

イップ・マンの晩年が描かれる。ここまでの作品のイップ・マンは「いい人」として描かれていたが、この作品にイップ・マン(アンソニー・ウォン)が、クセのあるやや偏屈な人物として描かれているのが特徴的。

イップ・マンは、家族を本土において単身香港に渡り、庶民相手に詠春拳を教えて、次第に弟子の人望を集めていた。その後、残してきた妻の臨終に立ち会えなかったことから精神に変調をきたし、フェロモン全開の歌手・ジェニーと親密になっていく。

男女の関係があったかは映画えは描かれないが、まあそういう関係だったのだろう。弟子の女性たちが、露骨にジェニーを忌み嫌うのが香港映画らしい。『イップ・マン 誕生』と同じパターン。

その後、警察が手出しできない無法地帯の九龍城で開催される闇試合で生活苦から脱しようとする弟子を救うため、他の弟子たちとともに九龍城に乗り込み大暴れする。

この映画は初見だったが、イップ・マンがジェニーの最期を看取ったり、師弟関係が人間味たっぷりに描かれていたり、今回の4本のなかではいちばん映画らしい作品に思えた。

エンディングに生前のイップ・マンの練習風景が収められているのも見逃せない。