退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『フォックスキャッチャー』(2014) / 積りゆくの狂気の行き着く先は…

新文芸坐の《スクリーンで観ておきたい珠玉の名編Vol.24》で映画『フォックスキャッチャー』(2014年、監督:ベネット・ミラー)を鑑賞。1996年に起きたデュポン社の御曹司がレスリングの金メダリストを射殺した事件を題材にしている。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものだ。同監督の『カポーティ』(2005年)と同じようなテイストで救いようない映画。

ロサンゼルス・オリンピック(1984年)でレスリングで金メダルに輝いた兄弟がいた。兄のデイブ(マーク・ラファロ)は社交的で人望も厚く、家庭人としてもまっとうな生活を送っていた。一方、弟のマーク(チャニング・テイタム)はコミュ障で人付き合いもうまく出来ない。金メダリストと言ってもマイナーなスポーツでであるレスリングでは、せいぜい学校で講演して端金(20ドル!)を稼ぐ程度で苦しい生活を余儀なくされていた。

そんなマークに、ある日デュポン社の御曹司ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から破格の条件のオファーが届く。自ら率いるレスリング・チーム“フォックスキャッチャー”をつくり、ソウル・オリンピックを目指すというプランだった。マークはそのオファーに飛びついて、デュポンの広大な敷地内に建てられた最先端の施設でトレーニングを始める。

しかし、ジョンはその時点で狂っていた。ジョンが突飛な言動を重ねるうちに、ジョンとマークの関係は次第に破綻していく。さらに兄・デイブも巻き込み、狂気を積もらせながら事態は悪化に一途をたどり、ついにジョンがデイブを妻の目前で射殺するという取り返しのつかない悲劇を経験する。

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ジョンの母が車椅子で登場するが、「あなた完全に子育てが失敗してますよ」と言いたい。子ども時代にジョンが親友だと思っていた使用人の息子は、実は母が金を渡して雇っていたエピソードは胸が痛い。また母にいいところを見せようとチームのメンバーにレスリングのコーチをするが無残に空回りするジョンの姿も痛々しい。

ジョンは、どの時期から狂いだしたのかは映画でははっきりしないが、精神的な病気なのは間違いない。大富豪なのでたいがいの問題は財力でなんとかできたので、誰からも咎められることもなく中年期まで過ごしてきた。しかし、幸せそうなデイブの家庭を目の当たりにし、レスリングのコーチとしてもデイブにまったく及ばないという財力は如何ともしがたい現実を突きつけられたとき、何かが壊れたのだろう。

映画を見終わって幸せな気分になるという映画ではないが、3人の演技合戦は見応えがあるし、映画としての完成度は高い。

ラストに総合格闘技の選手になったマークが登場する。兄を失って何か吹っ切れたのだろうか。これをわずかな希望と思いたい。

まったくの余談だが、デュポン(Du Pont)は、劇中では主に英語読みで「デュポント」と英語風に発音されれていたが、フランス読みで語末の子音を発音しないで「デュポン」と発音している出演者もいたようだ。フランス読みは米国人にとって気取ったように響くのだろうか。ちょっと気になった。

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