退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『野火』(2015) / 塚本晋也監督が戦後70年に問う問題作

新文芸坐の《昨年の邦画を振り返る毎年春の恒例企画 気になる日本映画達〈アイツラ〉2015》で映画『野火』(2015年)を鑑賞。原作は大岡昇平の代表作である同名小説。

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この映画は塚本晋也が監督・脚本・製作に加えて主演までしている。監督の長年の構想にもかかわらず出資者が集まらず、自主製作映画として2015年夏に公開された。

天下の塚本晋也が戦後70年を期して「野火」を映画化するのに、スポンサーが集まらないとは意外に思った。たしかに興行的な成功が期待できるわけでもないし、グロすぎて地上波ではとても放送できないだろうから、出資者が二の足を踏むのも仕方ないのかもしれないが世知辛い。

公開時、渋谷のユーロスペースの建物にポスターが貼ってあったのを見つけて、ああ上映しているな思ったが見る機会を逸していて気になっていたが、ようやく鑑賞できた。

この映画は日本軍の敗色が決定的になった太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島を舞台にした敗走記だが、映画では具体的な場所や戦況が分からずに始まる。観客が現地に放り込まれるような感覚があった。

冒頭、胸を患った田村一等兵塚本晋也)が部隊と野戦病院を往復させられるなかで既に日本軍が組織として機能していなことがわかる。その後は日本軍が壊滅していくなかを敗残兵としてひたすら原野を彷徨う田村の壮絶な体験が描かれる。

結局、田村は俘虜となり日本に生還し再び物書きとして生活に戻る。しかし戦地で一線を越えた体験は田村の心をひどく蝕んでいた。夫の奇行をじっと見つめる田村の妻を演じる中村優子の姿が切ない。

この映画はカニバリズムへの言及や戦傷者たちのグロテスクな描写などから、50年前につくられた市川崑版と比べてかなりハードな映画になっている。グロ注意。気が弱い人は遠慮した方がいいかもしれない。インパクトのある映像が延々と続く。

映像的には、予算の制約なのかデジタルカメラ丸出しで大きなスクリーンで見るとちょっと残念なシーンもあるが、全体としてはそれほどチープな印象は受けない。スタッフの苦労が忍ばれると言うべきか。

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そうは言っても、この作品は一歩引いて第三者の視点で物語を鑑賞するタイプの作品ではなく、観客がレイテ島に降り立つという体験型の映画であろうから、音響を含めて作品に没入できる映画館での鑑賞を強く勧めたい。

さらに言えば、この映画では戦争の悲惨さをひたすら描くばかりで、戦争責任はどこにあるのかといった大局的なことには触れていない。鑑賞後は歴史を紐解いて、なぜ南方の島で我々の先人たちである日本兵たちがこれほど凄惨な目に遭ったのかを考えてみる必要があろう。

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