退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『あかね雲』(1967) / 愛した男は脱走兵だった(その1)

新文芸坐の《毎日映画コンクールに輝いた女優たち》で、映画『あかね雲』(1967年、監督:篠田正浩)を鑑賞。原作は水上勉の同名小説。併映は『はなれ瞽女おりん』(1977年)だったので、岩下志麻主演作の2本立てを堪能。

昭和12年の北陸が舞台。まつの(岩下志麻)は病身の父を助けるため、石川県輪島の宿屋の女中奉公に出ていた。ある日、姐さんとして相談相手になっている律子(小川真由美)は、もっと景気のいい山代温泉に移ろうと誘うが決心がつかない。

ちょうど缶詰会社のセールスマンの小杉(山崎努)が、山代温泉の働き口を紹介してくれることになり、まつのは山代温泉行きを決める。温泉街では律子のアドバイスに反して小杉を信用して仲居として働き始じめるが、次第に商売女として身を落としていく。

一方、小杉の正体は陸軍の脱走兵で、憲兵隊に追われる身の上だった。憲兵の追跡の手が小杉に迫る。

まあそんな話で、まつのと小杉の純愛が描かれる。この映画は白黒映画だが、「あかね雲」のシーンは鮮やかなパートカラーで表現されているのが特徴的。しかしそれが何度も繰り返されるのにはいささか閉口した。あかね雲が出てくるといつもパートカラーになるのはあまりに工夫がなさすぎる。

出演者に目を転じてみる。岩下志麻はまだ可憐で、後に極妻で啖呵を切るとは思いもよらない。山崎努は女衒としての横顔をもち何人もの女を沈めてきたもののワルに徹しきれない心の葛藤を好演。悲壮感が漂う様子が意外にかっこいい。他の出演者では、小杉を追う冷徹は憲兵役の佐藤慶が適役。

全体としてはメロドラマなのだろうが、脱走兵の追跡劇はサスペンスのようでもあり、なんともはっきりしない作品。凡庸な作品であるが、映画のなかで世間に揉まれていくなかで段々に美しくなっていく岩下志麻を愛でる映画としては悪くない。

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