退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『の・ようなもの 』(1981) / 森田芳光の長編デビュー作

角川シネマ新宿で映画『の・ようなもの 』(1981年、監督:森田芳光)が期間限定で上演されていたので見てきた。落語の世界を舞台にした青春群像映画。本作の35年後を描く、1月に公開された映画『の・ようなもの のようなもの』の公開を記念しての企画上映とのこと。

主人公の二ツ目の若手落語家・志ん魚(しんとと・伊藤克信)を中心に次の2つの関係を軸にして展開する群像劇。ひとつは誕生日記念で行ったソープランドでの相手だったエリザベス(秋吉久美子)との奇妙な関係。もうひとつは女子校の落語研究会を指導したときに知り合った女子高生・由美(麻生えりか)との恋愛関係。どちらも捨てがたく二股交際になる。

ある日、由美の実家で両親の前で落語を披露するはめになるが、父親からは古今亭志ん朝立川談志と比べられ酷評された挙句、由美にまで下手と言われてしまう始末。落胆して帰宅しようとするが終電は終わっており、堀切駅から浅草まで歩いて帰る。深夜の下町を「道中づけ」しながらひたすら歩き続けるシーンが最大の見どころ。まだ吾妻橋のビール会社のヘンテコなオブジェはない時代の東京の風景が懐かしい。

一方、先輩・志ん米(尾藤イサオ)が真打ちに昇進することになり、川辺りのビアガーデンで祝賀会を行う。またエリザベスは雄琴に引っ越し新たな生活をすることになり、すっかり取り残されてしまったと感じた志ん魚が将来のことを悩み考え始める。


映画『の・ようなもの』 予告篇

ざっくりそうした話だが群像劇なのでこれといったストーリーはない。それでも不思議に印象に残るヘンテコな映画である。銃声が効果音として挿入される実験的な試みも面白い。

さりげない台詞のやりとりのなかにコメディの要素を織り込んでいく作風は、以後の森田監督作品を先取りしている。そうした意味では森田芳光の原点として一度は見ておきたい映画である。

ただし主演の伊藤克信の訛りのある台詞まわりを含め演技力はどうかと思うし、なにより二ツ目とはいえ落語が様にならないのは頂けない。まあ伊藤のみならず役者が落語を演じること自体がムズカシイのだろうが、もう少し落語をリスペクトして撮ってほしかった気もする。

余談だが、決して有名とは言えない旧作にもかかわらずほぼ満席だったので驚きました。ガラガラじゃないのかと甘く見ていました。どうもすみません。

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