退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】上杉隆『悪いのは誰だ! 新国立競技場』(2015年、扶桑社新書)

今年7月17日、迷走を続けた末についに新国立競技場の計画が白紙撤回された。この一件は今年の一大ニュースのひとつだ。

この本では「新国立競技場問題」に絡む利権を、後に事実上更迭された下村博文文部科学大臣などの関係者への取材を基に明らかにしていく。具体的には以下の3つの利権を挙げて検証している。

  • 東京都利権

悪いのは誰だ!  新国立競技場 (扶桑社新書)

悪いのは誰だ! 新国立競技場 (扶桑社新書)

それぞれの利権についての検証はなるほどと思ったが、タイトルにある「悪いのは誰だ!」ということになるとはっきりしない。これではタイトル倒れで、森元首相の記者会見での無責任な発言となんら変わらない。

また「新国立競技場問題」は、勝つ見込みがないのに責任者不在のまま戦争に突き進んでいった戦前の体制に喩えられることが多い。この本でも同様の指摘がされているが、やや陳腐な印象を受けた。

さらに、今後どうすればいいのか、という指針は示せていない点は不満。問題の経緯を記録に残すことにも一定の価値があるのだろうが、それだけでは問題の再発の防ぐことはできない。実際、責任問題が曖昧のままプロジェクトは進行している。

もうひとつ不満だったのは、デザインコンペについての検証だ。建築デザインの審査委員会の委員長をつとめた安藤忠雄氏が建築家の挟持をなぜ発揮できなかったのか。専門家なら計画が破綻するのはわかったいたはずだが、なぜ軌道修正できなかったのか。その点に興味があったのだが……。

しかし、この本はこうした疑問にはあまり答えてくれない。安藤氏の東大建築学科への敵対心もその一因だとしているが憶測の域を出ない。それほど単純ではないだろう。日本のゼネコンの陰謀を匂わせる記述もあるが、これも根拠を十分に示せていない。まあゼネコンと施主が事前にはっきりとテーブルの下で手を握っていれば刑事事案だろうが。

これだけ大きな案件なのだから日本の風土を考えれば利権に群がる人がいてもおかしくないし、多少はそうした人たちが美味しい思いをするのも仕方ないかもしれない。しかし仕事はちゃんとやれと言いたい。「白紙撤回」とは何事かと。

それでも東京五輪は待ったなし。にも関わらず、新しい「新国立競技場」計画はどうなったのかまるで聞こえてこない。炎上中はあれだけ騒いてきたマスコミもすっかり鳴りを潜めている。日頃からウオッチしていればいいものを。こうしたメディアの姿勢にもこの問題の責任の一端があるように思う。

f:id:goldensnail:20151211085020j:plain

【関連記事】