退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『カンゾー先生』(1998) / 女優・麻生久美子の出世作

麻生久美子が、先月NHKの情報番組「あさイチ」に出演したとき、映画『カンゾー先生』(1998年、監督:今村昌平)のことを話していたのでDVDで見直してみた。坂口安吾「肝臓先生」を原作にした喜劇映画。英語のタイトルは、Dr. Akagiである。

舞台は終戦間際の岡山県の小さな漁師町。どんな病気でも肝臓炎と診断してしまう開業医・赤城医師(柄本明)は、町の人たちから「カンゾー先生」と呼ばれながらも頼りにされる町医者だ。そんな赤城医師だが、実は東大卒で留学経験もあるエリート。肝臓炎に危機感を抱いた赤城は、日々の診療の傍ら肝臓炎ウィルスの研究に没入していく。本作では、赤城を取り巻く人々が、戦時中にもかかわらずたくましく生きる様を描く。

劇中、軍医として働きたいという赤城の申し出があっさり断れるところからも、本来、主人公の赤城医師はもう少し年上の役者が演じる役のようだが、名優・柄本明が熱演している。「開業医は足だ!」という彼のモットーのとおり始終走り回っている姿が印象的だ。

とは言うものの、この映画はやはり麻生久美子の映画として長く記憶されるだろう。麻生の役は、赤城に看護婦として雇われる淫売癖のあるソノ子で、ヌードや濡れ場を演じきっている。またラスト近くにクジラを仕留めるために銛を持って海に飛び込むシーンでの水中撮影はなかなかの見どころである。

いまや大物女優の風格さえ感じさせる麻生だが、撮影当時20歳ぐらいであろうか。騙されて撮影所に連れてこられたわけでもあるまいが、その後、本作のような脱ぎ役がないことから貴重な作品と言える。何よりも巨匠・今村昌平監督の薫陶を受けて、今日まで女優を続けてきたことを思うと、まさに彼女の出世作であろう。

カンゾー先生 [VHS] (1998) 柄本明 麻生久美子 松坂慶子 唐十郎

戦時中を舞台にしているためジメジメした映画かと思ったが、山下洋輔の劇伴のせいか全編ドライな仕上がりになっている。ラストに広島原爆と思われるキノコ雲が目撃され、雲の形が化け物に変わっていく。被爆地では甚大な被害を出ているはずだが、なぜか爽快とも思える後味を残して映画が終わる。なんとも不思議なエンディングだ。