退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】猪瀬直樹『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』(マガジンハウス、2014年)

前・東京都知事猪瀬直樹が記す、奥さん・ゆり子さんへの鎮魂歌。40余年連れ添った妻への愛に溢れています。

さようならと言ってなかった わが愛 わが罪

さようならと言ってなかった わが愛 わが罪

信州大学で出会ったふたり。猪瀬が文筆家として名を成すまでの間、家出同然で彼を追って上京した妻が小学校教員として働いて彼を支えます。高度成長期からふたりで過ごした日々が綴られています。いわゆる「あげまん」ですね。地方出身者としては憧れる生き方でもあります。

そして、ついに都知事にまで上り詰めた猪瀬は、2020年東京五輪の招致活動に取り組みます。そうしたなか妻の身が不治の病気に罹っていて余命わずかであることがわかります。家族の闘病生活。招致成功。そして妻の死。招致活動と妻の病が同時期に進行していく様子が淡々と描かれます。

印象に残ったのは、ゆり子さんの教員時代の活動についての描写です。小学校教員という仕事に馴染みがないこともありますが、興味深く読みました。奥さんが亡くなってから教員時代のことを整理したのでしょうか。深い愛情を感じました。

一方、釈然としなかったのは文筆家の仕事から離れて、政治に関わるようになったことです。道路公団民営化問題などについての執筆活動のなかで政治・行政の闇に関わる機会もあったのでしょうが、自ら渦中に飛び込まなくてもいいのではと思っていましたが、この本はその疑問にはあまり答えてくれません。

政治家としての猪瀬については毀誉褒貶があるでしょうが、実績も残しました。身近な例では、時々利用する九段下駅の「バカの壁」の撤去が挙げられます。あのホームに立つと猪瀬前都知事のことを思い出します。他にも地下鉄にケータイの電波が届くようになったことアピールしていた記憶があります。

しかし都知事としてのキャリアはスキャンダルにより無残に終わります。この本にも反省文ともとれる記述があります。「都営地下鉄東京メトロ一元化」などはやり遂げてほしかったテーマですが残念です。現知事になってから都政が都民から遠くなった印象がありますね。おっと脱線しました。

この本を「お涙頂戴」と切り捨てるのは簡単でしょう。しかし夫婦が40余年ともに歩んできた姿が封じ込められているのも事実。読み応えがありました。世代によっては自分の人生に重ねていろいろ考える人も多いでしょう。

最愛の人を失った猪瀬は、今後どんな著作活動を展開するのでしょう。まだまだ彼にしか書けない世界がありそうだ、と本書を読んで思いました。昔読んだ『昭和16年夏の敗戦』を読み直してみようか。