退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『ボクサー』(1977) / 寺山修司と菅原文太のコラボによるボクシング映画の秀作

新文芸坐の《追悼 菅原文太 永遠(とわ)に輝け一番星》で映画『ボクサー』(1977年、監督:寺山修司)を鑑賞。菅原文太の追悼上映企画のなかの1本。東映からの依頼で撮った、寺山修司唯一のメジャー映画。寺山・文太の異色コラボが紡ぎだすボクシング映画の秀作。

菅原文太は、かつては栄光のなかにあったが、いまは老犬とともにボロアパート住まいという元・ボクサーを演じる。その元・ボクサーが、足の悪い若者(清水健太郎)をコーチして新人王を目指す。都電沿線のドヤ街の雰囲気や、天井桟敷の面々が演じる住民たちが味わい深い。さらに、輪島功一具志堅用高ファイティング原田ガッツ石松とった歴代のチャンピオンが映画に花を添える。

本作は、寺山の演出によって東映らしからぬ雰囲気を持った映画に仕上がっている。その映画の独特のテイストが一番の注目ポイント。寺山修司のボクシングに対する造詣の深さもうかがえる。

印象に残るシーンは、貯木場で水面に浮かんだ材木の上で二人がトレーニングしているシーン。材木から落ちないか映画を見ている方がヒヤヒヤする。また新人王を争うクライマックスもなかなかの盛り上がりを見せ、国内のボクシング映画としては屈指の仕上がりではないか。未見の人は一見の価値あり。

それでも格闘技は素人と玄人の違いがいちばんはっきりするスポーツだというが、試合のシーンでの清水は、足が不自由という設定にしても動きが鈍い。比べるのも酷だろうが、劇中で具志堅用高がシャドーを披露すると全然体のキレがちがう。これを見せられると現実に戻されて一気に醒めてしまう。まあ、こればかりは仕方ないのだろう。

この映画から離れるが、今回の菅原文太の追悼企画には東映映画ばかりでやや不満。新東宝時代の作品や声優として参加したジブリ作品『千と千尋の神隠し』『ゲド戦記』も見たかった。