退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】春日太一『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文藝春秋、2013年)

東映京都撮影所にみる様々な人間模様や映画に対する情熱を綴った本である。映画業界の興亡史としても読むことができる、400ページを超える力作。映画好きに広くすすめたい。 

あかんやつら 東映京都撮影所血風録

あかんやつら 東映京都撮影所血風録

10年にわたる取材に基づく一冊で読み応え十分。会社設立時から現代に至る東映の歴史がよくわかる。この歴史を踏まえて東映映画を見るとひと味ちがった見方ができるだろう。

全編通じて感じたことは、やはり映画は大勢の人間が作っているということ。傲慢不遜な人がいればチームワークが乱れてつまらない映画しかできないし、逆に強固なチームワークにより予想以上のパフォーマンスを発揮して映画史に残る映画ができる。すべては人間次第。そんな事例がいくつも出てくる。

経営陣も同じことだ。本書では「実録路線」以降の岡田茂の企画屋としての衰えを指摘しる箇所は興味深い。どんなに大きな業績を残した人でもやがては衰える。引き際が大切だということを痛感させられる。

個人的な興味で言えば、第三部「暴力とエロス都」を面白く読んだ。時代劇が凋落したあとの時代だ。生き残りを図る撮影所が下のように暗中模索しているところが面白いし、作品にも見るべきものがある。

東映の通史ともいうべき本書だが、2010年代になるとほどんど記述がないのは気になる。設立当時のDNAがいまだに残っているのかわからないが、東映は大企業に成長した。新宿東映新宿バルト9に変わるのだからスゴイものだ。設立当時の貧乏な様子を読むと感慨ひとしおである。

また本書は京都撮影所にフォーカスしているため、東京撮影所で撮られた仮面ライダーなどの特撮モノは登場しない。特撮ファンとしては残念だが念のため申し添えておく。

この本はもちろん通読してもよいが、自分の好きな作品や監督・俳優が登場する箇所をつまみ食いする読み方もありだろう。それには作品・人物の索引がほしい。資料としても貴重な一冊だけに索引がないのは実に惜しい。電子書籍化されれば検索ぐらいできるようになるだろうか。

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