新文芸坐でドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』(2012年、監督:ジョシュア・オッペンハイマー)を見てきた。60年代にインドネシアで行われた大虐殺を追った作品。今回、一応予備知識を仕入れてから見たが、かなりショックを受けた。見る前には心の準備が必要な映画。
アクト・オブ・キリング オリジナル全長版 2枚組(本編1枚+特典DVD) 日本語字幕付き [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2014/12/03
- メディア: Blu-ray
舞台は冷戦時代のインドネシア。1965年、当時のインドネシア大統領・スカルノがスハルトのクーデターにより失脚する。その後、「共産党員狩り」と称した100万人規模の大虐殺が行われた。実行者は軍や警察といった公権力ではなく、「プレマン」と呼ばれる民兵・ヤクザだった。そのプレマンたちは当時の犯罪を追及されることもなく国民的英雄として称賛され、いまでも幸福そうに暮らしている。
当初、監督は虐殺の被害者を取材していたが、現地では事件がタブー視されてうまくいかない。そこで取材対象を変更して、加害者たちに「過去の行為」を再現させるために映画を撮ることにする。原題の"The Act of Killing”のactは「お芝居」程度の意味であろうか。映画スター気取りで、虐殺の様子を演じるプレマンにもとうとう変化が表れる……。
驚いたのはエンドロールのスタッフクレジットに匿名(Anonymous)という文字が並んでいたことだ。こうした映画の制作に関与していることが当局に知れると、身体の危機につながるのだろうか。インドネシアの現状を暗示しているようだ。
インドネシアと言えば、バリ島に代表される観光地の印象がつよいが、こうした映画を見せられる印象が大きく変わる。それほど遠くない過去に暗部があるとすれば、国民の間には埋めようもない溝があるにちがいない。インドネシアの人たちはどう消化しているのだろうか。
また大虐殺に背景には冷戦時代があることも忘れてならない。この映画では明確に言及されていないが、共産化を防ぐために西側からの支援・黙認があったことも容易に想像できる。ある意味、大国間の東西冷戦の犠牲者と言えなくもないが、冷戦が終結していまなお民主化が達成できていないのは、やはりインドネシアの問題というべきだろう。このあたりは今後のインドネシアの人たちが自ら決めることであろう。
またインドネシアの宗教観についても気になった。プレマンたちはどんな神を信じているのだろう、どうな死生観を持っているのだろう。映画ではもう少し宗教面からのアプローチがあってもよかったかもしれない。
The Act of Killing - Official Trailer (HD) - YouTube
YouTubeに著作権をクリアした映画全編が上がっていた。字幕がないので台詞はわからないが映画の雰囲気を知るのにはよいだろう。