退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【映画感想】『未来世紀ブラジル』(1985) / DCPで驚きの高画質でした

新文芸坐の〈魅惑のシネマクラシックスVol.16〉で、SFカルト映画『未来世紀ブラジル』(1985年、監督:テリー・ギリアム)を見てきました。懐かしい。併映は『シザーハンズ』でしたが、ここは『ブレードランナー』と組み合わせてほしかったです。

舞台は、20世紀のどこか、情報省により全体主義的な情報管理が行われている架空の国。原題は、単にBrazilですが、南米ブラジルを描いた作品ではありません。映画全編に流れるテーマ曲のボサノバの名曲「アクアレーラ・ド・ブラジル(ブラジルの水彩画)」に由来するとのこと。

この映画の背景は、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』と似ているし、全体主義的な官僚社会による個人の疎外というテーマは、昔からSFで繰り返し取り上げられています。

しかしこの映画のみどころは、ストーリーよりもテリー・ギリアムによる圧倒的な映像描写でしょう。主人公・サム・ラウリーの妄想のなかで、翼を持ったヒーローになり天使のような娘と大空を飛ぶシーンや、巨大なサムライ(槍はなぜか中国っぽい)と戦うシーンが強烈な印象を残します。

またエンディングも絶望的で好印象です。一見、情報省に対し奇跡的な勝利を収め、恋人と田舎へ逃亡するハッピーエンドかなと思わせます。しかし現実では、主人公は大臣の拷問により発狂していており、逃亡劇は傷つけられた彼の心が見た幻想でしかなかったということが突如観客に知らせる、という救いのないエンディング。「愛はすべてに勝つ!」といった甘い夢を真っ向から否定しています。


Brazil (Terry Gilliam 1985) - Official Trailer - YouTube

この映画は久しぶりに見ましたが、これまでになく映像が鮮明でした。あとで調べるとDCP上映でした。こうしたカルト映画がデジタル化されているとは驚きです。名画座で映画を見ると映像の状態が悪くてがっかりすることが少なからずあります。日本映画も名作と言われる作品ではなくてもDCP化を推進してほしいところです。採算がムズカシイ作品もあるでしょうが、こうした事業には政府からの補助があってもいいでしょう。

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