退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

「在日朝鮮人の女性フリーライターがまとめサイトを提訴」というニュースで考えたこと

在日朝鮮人の女性ライターが、名誉を毀損されたとし、在特会2ちゃんねるまとめサイト「保守速報」の運営者に損害賠償を求めるという報道があった。

インターネット上の人種差別的な発言で名誉を傷つけられたとして、在日朝鮮人フリーライター、李信恵(リシネ)さん(42)=東大阪市=が、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の桜井誠会長や在特会に約550万円、また発言を掲載したインターネットサイト「保守速報」の運営者に約2200万円の損害賠償を求める訴えを、18日にも大阪地裁に起こす。
専門家によると、在日への「ヘイトスピーチ」を巡り、個人が賠償請求する訴訟は初めてとみられる。

李さんによると、桜井会長らは昨年初めから今年7月までインターネット上で、在日朝鮮人という李さんの出自を取り上げて、「不逞(ふてい)鮮人」などと蔑視、差別するような言葉を繰り返し投稿。
「保守速報」も昨夏から今年7月まで同様の匿名による差別的な発言を掲載した、としている。【松井豊、後藤由耶】


ソース:毎日新聞(2014/08/15)

この記事を読んで面白いと思ったのは、請求損害賠償額が、在特会より「保守速報」の管理人のほうが大きいという点である。算出根拠をを聞きたいところだが、ネット上のヘイトスピーチの影響が大きいと考えたのだろうか。

ヘイトスピーチ在特会が提訴されることはこれまでもあったが、ヘイトスピーチを掲載したまとめサイトが訴えられるのは初めてではないか。まとめサイトの管理人たちの心胆を寒からしめるニュースであろう。

この提訴はいろいろな論点があるが、とくに気になる点を以下に列挙する。

まとめサイトの編集行為の恣意性

まとめサイトは、2ちゃんねるなどに書き込まれた内容から抜粋・転載し、読みやすくまとめたサイトである。当然、書込みの取捨選択や特定の書込みを文字の大きさや色を調整する編集行為には恣意性がありバイアスがかかる。

そもそも政治的問題に、あからさまなバイアスが介在するまとめサイトは適していない。もっともまとめサイト側は、別に政治的問題を真摯に議論したいわけではなく、ただ炎上を煽りアクセスを稼ぐことが目的なのだろうから、ある意味構わないのだろうが……。

今回の裁判で、まとめサイトの編集行為の恣意性がどのように取り上げられるのが気になる。例えば、「不逞鮮人」のような差別用語を強調表示していたら、人権侵害を助長する行為をみなされるかということだ。

人種差別についての裁判所の判断

今回の問題は人種差別の要素を多分に含んでいることが深刻だ。日本の現行法では、人種差別だから即座にアウトというわけではないが、裁判官の心証は大きな要素だろう。

今回の判決に人種差別を特に問題にする一節が盛り込まれるかどうかに注目したい。出自のような当人がどうしようもないことで差別することは許されないだろう。これは国際的基準でも完全にアウトである。

今回の裁判は、日本は移民政策や外国人労働者受け入れの議論する前に、まず人種差別を禁止する法整備が必要だという議論につながる契機になるかもしれない。

まとめサイトの運営者の正体

野次馬的な好奇心からだが、「保守速報」なるまとめサイトの運営者の正体が気になる。どんな人(たち)なのだろう。今回の報道でも原告であるライターの名前は報じられているが、被告である運営者の名前が出ていない。

今回は民事訴訟なので、被告の実名は開示されないかもしれないが、そこはネット上の特定厨が本領を発揮してくれるかもしれない。どういう人たちが世論を煽って小銭を稼いでいるのか興味のあるところだ。

また年齢層、居住地、政治信条、社会的階層、教育レベル、就業経験はあるのかなどといった属性を明らかにすることで、現在の日本が直面する社会問題について少しは知見を得ることができるのではないか。
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photo by pigeonpoo