退屈な日々 / Der graue Alltag

将来の展望が見えない現代。それでも映画や本を楽しみ、ダラダラと過ごす日常を生暖かく記録する。

【読書感想】ケイン岩谷ゆかり『沈みゆく帝国』

サブタイトルに「スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか」とある。それが示すとおり、ジョブズがCEOとして経営を担っていた当時から始まり、ジョブズの死、そして、その後のアップルの経営陣が遭遇するさまざまな試練を描くノンフィクションである。500ページ超えの読みごたえのある1冊。

沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか

沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか

試練と言うのは、例えばEMSのフォクスコンでの労働問題、サムスンとの特許訴訟、イノベーションを生み出せない社内など。入念な取材に基づき、ジョブズ亡きあと、ティム・クック率いるアップルの軌跡を追っている。

比較的取り上げられることの多いクックだけじゃなく、他の幹部たちへの言及も多く、失脚した人も含めてどんな幹部がアップルを動かしているのがよくわかる。

とくに印象に残ったのは、断片的に伝えられていたサムスンの特許紛争を丹念に追ってあるところ。その分野の専門家が判決を下すのかと思ったが、米国の裁判制度では一般市民から選ばれた陪審員が評定を下す制度だという。

しかも、販売停止が認められても特許侵害していた製品は既に旧製品になっているため実質的な意味を持たない。その後も巨人同士の不毛な殴り合いが続くといった図式。知財権より市場が大きな力を持っているのが新しい時代であることがわかる。

他には「iPad以来、イノベーションが生み出せない」とアップルの将来性が危惧されている。しかし、iPad,、iPhoneiPadといったユーザーの生活を変えるようなイノベーションがそうやすやすと生まれるはずがない。アップル信者の期待値が高すぎるのではないか。もう少し長い目で見ようよ。そんなことを思った。

ちなみに本書の原題は、"Haunted Empire: Apple After Steve Jobs”というタイトルで、「沈みゆく帝国」よりも若干弱い印象を受ける。どんな表紙かと思ったら、ジョブズの写真がブルーで塗りつぶされている。ジャニーズかと思った。

Haunted Empire: Apple After Steve Jobs