“安定の超低空飛行"を続ける中年フリーターの野口ヨシオ。そんなヨシオと結婚するでもなく同棲するでもなく付き合い続けて17年になるフリーライター・マキエ(筆者)が描く二人の関係。幸せに必要なのは金なのかと問いかける「フリーな」カップルの物語である。
タイトルの「稼がない男」は「稼げない男」ではないというのがキモだろうか。早稲田卒で留学経験もあるヨシオ。その気になればもっと稼ぐポテンシャルを持った男が、稼ぐのが嫌いという理由で低所得のフリーター。世の中には必死で働いても貧困から抜け出せない多くのワーキングプアーがいるなかで、ある意味優雅なものだ。
それでも生活保護を忌避し、「どんなことになったって、ちゃんと生きていく自信がある」とはっきりと言えるヨシオはかっこいい。実際、誰に迷惑かけているわけでもない。その生き様に文句を言える人はいない。
もっとも、「こんなヤツがいるから日本の少子化が加速するんだ。いい加減にしろ」という意見を持つ人はいるかもしれないが、二人はそんなこと歯牙にもかけないのだろう。これからの日本、とくに都市部での生き方のロールモデルになる可能性はある。
二人が幸せならば貧乏でもいいじゃないかとも思うが、ベッドのマットレスやビデオレコーダーを買い換えるのに困っているというのは、ちょっと……。もう少しなんとかならんのかと思わなくもないが、余計なお世話というものだろう。
この本の帯にある「オレは西園寺をちゃんと幸せにしてる」と言い切れるヨシオには、誰にも侵すことができない迫力がある。男として、そういうセリフを一度は言ってみたいものだ。社会に流されることもなく主体性をもって生きている二人に幸多かれと願わずにはいられない。